少しずつ、少しずつ
どうしよう。
もしかして、出すぎた真似だったのかも知れない。
そうよね、だってあんなにたくさんの書物を読んで、調べていらっしゃるのですもの。それに、レオ様はお友達だってとても多い。私が差し出がましい事をせずとも、これくらいの情報は入って来ていたに違いない。
疲れていらっしゃるのに、時間を無駄にしてしまったのかも。
すっかり黙り込んで、何か考え込んでいるレオ様の様子に、私の心中には心配だけがもくもくと浮かんで来た。
ダメだ、沈黙に耐え切れない。
「あの、レオ様」
おずおずと話しかけた私に、レオ様がハッとしたように笑顔を見せる。
「ごめんごめん、とても参考になったよ。ちょっと考えてみる」
そう言ってはくださったけれど、レオ様の優しさから出た言葉ではないかと思うと、いたたまれない。そんな私の不安を敏感に感じ取ったのか、レオ様はいつものように明るく笑う。
「それはそうと、今日は君の調べものを手伝ってもいいかな? 実は俺も興味があるんだ」
「そんな! だってお忙しいのに」
「大丈夫、大丈夫」
「だってクマができているじゃありませんの、そんな事より休まないと」
心配しているのに、レオさんは笑いながらも一切退いてはくれない。まあまあ。大丈夫、大丈夫。これ一冊だけ……と言いながら、結局その日は私の調べものに付き合ってくださったのだった。
それからさらに二週間。
今日も私は、とても真面目にマークさんの特訓を受けていた。
先週はセルバさんの番だったんだけれど、ルーファスに厳しく言われていただけに、魔力の循環も継続的な回復魔法の実験もできず、粛々とテールズの仕事をこなし帰路についた。
あの回復魔法のおかげで本当に一週間とても体が楽だったし、できることならまたあの魔法をかけて欲しかったのだけれど、セルバさんから断られてしまったのだ。
なんでも、実験が終わって安全性が検証されてからでないとダメなんですって。
ああ、あの時うっかり気絶してしまったばっかりに、貴重な機会を逃してしまった。私はとても残念だけれど……ルーフェスは魔力の流れもチェックできるから、こっそりやるわけにもいかない。
こればっかりは諦めるしかなかった。
そんなわけで、名実ともに魔法はいったん置いておいて、護身術からしっかり学んでいるわけだけど。
数回手合わせしたところで、マークさんはフッ……と動きを止めて、僅かに目を細めた。そうはいっても、いつマークさんが攻撃に転じるかも分からない。両手両足は自然体ながらも、私は油断なく、迎撃する心づもりで様子を窺う。
マークさんの口元が、ゆっくりと動いた。
「前の時よりも、瞬時に反応できる型が増えている。さぼらずに特訓したようだな」
ほ、褒められた!