華やかな紅月祭
今度は私が驚く番だった。レオ様が生徒会の事案で色々と忙しくしている事はあっても、こんな風に目の下にクマを作って、弱ってしまうような事はなかった。
心配させないようにという配慮もあってか、それを表に出す事なんてこれまで一度もなかったから。
「まあ、生徒会の?」
「ああ、あと半年もしたら俺たちも卒業だからね。その前に紅月祭があるの、知ってるだろう?」
「ええ、もちろん」
確か、紅月の頃に行われる学園の伝統行事だった筈。毎年、卒業式を二か月後に控えた時期に行われるこの行事は、卒業や入学の祝いに開かれるパーティーに劣らず盛大で、皆が楽しみにしているものだ。
貴族の子弟が多く集まるこの学園らしく、皆華やかな装いで参加するのはもちろん、豪華で煌びやかな食事や、麗しいダンスといった社交界のパーティーを模した部分と、楽器演奏のコンクールや演者を呼んでの出し物もあったりと、ちょっと高尚な文化祭のような催しだったりする。
この紅月祭のイベントは確かこの乙女ゲームでは、どんなドレスを着るか、誰にエスコートを頼むか、誰とダンスを踊るかでルートが確定すると言っても過言ではない重要なものだった。
ちなみに昨年は既に私は下町でクリスとして働いていた時期だったから、どんな催しがあったのかすら知らないわけだけれど。
「この紅月祭が俺達の代の生徒会で実施する最後の大きな催しだからね、何としても成功させたいんだ」
クマはつくっているけれど、レオ様の瞳には強い決意がみなぎっていた。
「他の催しと違って紅月祭は自由度が高いんだよ、だからこそ主催の力が試される」
そういわれれば、入学や卒業のパーティーは基本的に式次が決まっているし、来賓も多くて堅苦しいものだけれど、毎年、紅月祭だけはとても賑やかで楽しいし、なにより趣向が凝らされている。参加する生徒たちの装いももっとも煌びやかで、誰もが一番気合を入れて参加する催しなのだ。
何が起こるか分からない面白さもあるし、パーティー自体もとても派手だ。
人脈を駆使して楽隊を呼ぶ事もあれば、ファッションショーのような催しをしたこともあると聞いた。曲芸だったりはやりの劇団だったり、その年その年で見世物が違う。
この学園に通う平民たちは、普段は接することができない豪華な食事や華やかな見世物をとても楽しみにしていて、精一杯のおしゃれをして楽しむんだと、カーラさんやエマさんも目をキラキラさせていた。
そして貴族たちの間ではもちろん、社交パーティーと同じく、お相手を探す絶好の機会として利用されるわけだ。どちらにしてもこのパーティーにかける熱い思いは変わらない。