どういうこと?
「回復魔法?」
「そうさ、本当に単なる回復魔法だよ。クリスちゃん疲れてたみたいだったから、ちょっと回復してあげようと思っただけなんだ」
マークさんの怪訝そうな声に、セルバさんは少しだけむっとしたように答える。そして、その答えを聞いたルーフェスは、脚を止めてセルバさんを仰ぎ見た。
「回復? なぜそれで倒れるんだ。貴方は高名な魔術師だと父からは聞いていたんだが」
セルバさんに相対するとなぜかルーフェスの言葉が堅いけれど、もしかしてお仕事モードなのかしら。それにしてもセルバさんが高名な魔術師だとは。そんな方に護衛なんてお願いしてよかったのかと心配になってしまう。
どういう経緯で私の護衛を引き受けてくださったのかはわからないけれど、ありがたいことだ。
「なぜ倒れたかなんて僕の方が知りたいくらいだったさ。そもそも倒れるような事なんかしていなかったんだから」
「話にならない。行こう、姉さん」
「まあまあ、せっかちな男は大成しないよ」
からかうようにウインクしたセルバさんには、なぜか余裕のようなものが感じられた。ルーフェスもセルバさんの変化を感じたのか、不愉快そうな表情ながらも話を聞こうという気になったらしい。
「で? 止めたからには聞く価値があるんだろうな」
「多分ね」
「聞こう」
憮然としたままのルーフェスに苦笑しながらも、セルバさんは「仮説だけど」前置きして、自らの考えを語ってくれた。
「今回の件は多分、ふたつの想定外の事が同時に起きたことで発生したんだろうね。ひとつは魔術の術式が想定よりも大きく魔力に反応した事。そしてもうひとつはクリスちゃんの体が想定よりも魔力への順応が早かったという事だ」
「それは単に読みが甘かったという事だろう」
「そういわれると身も蓋もないんだけど、その通りだね。……ごめんね、クリスちゃん」
一刀両断、といった風情のルーフェスに、セルバさんは眉毛を下げる。そしてまた、申し訳なさそうに私に頭を下げた。
「は、はい。あの、でも、ごめんなさい。意味がよくわからなくて」
「安心しろ、俺もわからん」
私だけ意味が分からないのかと内心どぎまぎしていたから、マークさんの援護射撃にほっとする。もうちょっとでいいから、分かりやすく言ってくれないものかしら。
「俺たちにも分かるレベルで話せ」
どうやら同じことを思っていたみたい。マークさんが単刀直入にそう言うと、セルバさんはうーん、と言葉を選びながら説明してくれた。
「ええと、まずは魔術の術式が想定よりも大きく魔力に反応した、っていう点なんだけど」
「おう」
「さっき言った通り、僕はクリスちゃんが元気になるようにと思って、今回は術式の中に回復魔法を組み込んでみたんだ」
「いきなり小難しいな」
「だろうね。一般的に出回ってる魔法は既に術式が確立されて一般の人にも使えるレベルに昇華されてるものだしね」
「待て、待て待て。その話はさらにややこしくなるのか?」
若干面倒くさそうになったマークさん。気持ちはわからないでもないけど、私は今後魔法だって習っていこうと思っているわけだから、自分の体に起こったことくらいは理解しておきたい。