ぽかぽかする
かつてない程シュンとしてしまっているセルバさん。
でも、倒れた理由も定かでない私には、なぜセルバさんがそんなにも申し訳なさそうなのかすら見当がつかなかった。
「あの、私……?」
「クリスちゃんが倒れたのは僕のせいなんだ。本当にごめん」
先ほどからの話の流れでそれは何となくわかったけれど。
「何があったのか聞いても?」
「うん……」
途端に歯切れが悪いセルバさんの頭を、マークさんが剣の柄で軽くこつんと小突いている。早く話せ、と急かしているんだろうけれど、それでもセルバさんは口ごもったまま。
「クリスは意識を失うほどのダメージを負ったんだぞ。お前の『実験』とやらの中身を知る権利があるはずだ」
「いや、分かってる、分かってるんだけど。まさか倒れるなんて思わなかったんだ。そもそもそんな危険な実験じゃなかったんだよ」
「御託はいい」
突然、少し高めの声が割って入ってきた。
「まあ、ルーフェス。もうそんな時間?」
もうルーフェスが迎えにくるような時間なのかしら。なんという事だろう、午後からまったくお店を手伝えなかったんじゃないかと思うとかなり落ち込む。しかもむしろ心配も迷惑もかけてしまったし。
「姉さん、なにのんきな事言ってるの。姉さんが倒れたってここの女将が連絡くれたから、僕、飛んで来たんだけど」
ジト目で見られてしまった。
なんと、女将さんったら連絡してしまったのか……。家族にまで心配をかけてしまったと思うとなんだか申し訳ない。私自身は倒れた自覚もあまりない程、体調にも変化がないんだけれど。
そう、どちらかというとぽかぽかして気持ちいいくらい。
「心配してくれたのね。来てくれてありがとう」
「……うん」
お礼を言うと急に恥ずかしそうに目を逸らす姿がちょっと可愛い。この一年ほどで時々見かけるようになったルーフェスのこの表情を、実は私はとても気に入っている。
面倒見がいいくせに素直じゃないから、お礼を言われると照れちゃうのよね。微笑ましくてついつい顔がほころんでしまう。
「でも大丈夫よ、今はとても気分がいいの。いつもよりも調子がいいくらい」
そう言った瞬間、セルバさんが勢いよく顔を上げた。ついさっきまで暗雲を背負っているみたいだったのに、今は輝かんばかりの笑顔だ。
「ホント!?」
「え、ええ。なぜかぽかぽかと暖かい気がして」
「良かった! 僕の仮説は間違っていなかった!」
私の両手を取って、ぶんぶんと上下に振るセルバさんは、なぜか喜びに満ち溢れている。
「痛たっ」
「気安く触るな」
セルバさんの手を手刀で叩き落して、ルーフェスが私とセルバさんの間に立つ。ひょろりと背の高いセルバさんを冷たい目で睨みつけるルーフェスの背中は、まだまだ細身で華奢と言ってもいい。
それでも、守ろうとしてくれるのは素直に嬉しい。
「もういい、そもそも弁解だの実験の内容だのを聞く必要もなかった。今後関わらなければいいだけだ。姉さん、帰ろう」
「え、ちょっと」
ルーフェスは私の手をぐっとつかむと、扉の方へずかずかと歩んでいく。
「わ、ちょっと待って! 違うんだ、僕は継続的な回復魔法を魔力の循環に組み込んだだけなんだって!」