いい判断だ
そうしてシャーリーに特訓に付き合って貰いつつ数日を過ごした私は、二週間ぶりにマークさんの特訓を受けていた。
お昼ご飯を超特急で食べて、残る四十分程しか手合わせの時間はない。一本でも多く実践しようと、私は無心で体を捌く。自分で言うのもなんだけれど、以前に比較したら、格段に体の切れが良くなったと思うのだけれど。
「驚いた、なかなかいい動きだ」
後ろから腕をひねりあげられた時の型を実践している時だった。
マークさんが唐突に褒めてくれる。私はマークさんから表情が見えない体勢なのを良いことに、ニンマリとほくそ笑んだ。
この型と、もう一つ。前からの攻撃に関しての型を、この二週間徹底的に訓練してきたんですもの。それがマークさんにも気づいてもらえるレベルであった事に、嬉しさと誇らしさを感じる。
知恵を授けてくださったレオさんと、実践に毎日付き合ってくれているシャーリーのおかげだ。
「特に飛びぬけて反応がいい型があるな」
鋭い指摘に、私はレオさんに助言を受けて、集中して特訓していることを白状した。するとニヤリと左の口角だけをあげたマークさんが、満足そうに頷く。
「なるほど、いい判断だ。あの坊主もなかなかやるじゃないか。……これはどうだ?」
後ろから覆いかぶさる暴漢から抜け出すものは、まだ特訓していないだけに簡単に囚われてしまった。
読みが追い付かないだけで一応型は知っているから、一拍遅れながらも逃れるために腹部を狙って肘鉄をくらわせるように動くけれど、マークさんの鍛え上げられた腕から逃れるのは至難の業だ。
「こちらはまだまだだな。だが、今の覚え方は効率は悪くない。続けるといいだろう」
マークさんのお墨付きももらえて一安心。
レオさんの話を聞いたマークさんが妙に嬉しそうだと思ったら、マークさんも頃合いを見て同じアドバイスをする予定だったと聞かされた。
自分で気付くも良し、しばらく悩むもよし。いったん全体像を一通り試してから集中して型を高めていく方が自分の得意な型などもわかっていいのだとか。
セルバさんの時にも思ったけれども、色々な事を考えながら教えていただいているんだと感じられて、とにかくありがたい。精進しなくては。
「おっ、やってるやってる」
そこにやってきたのはセルバさん。少し本を読んで帰るつもりなのか、分厚い魔導書を持参しての登場だった。今日はモノクルというのかしら?片目だけのメガネをかけていて、余計に頭が良さそうに見える。
「セルバか。どうした」
「ああ、用があるのはクリスちゃんの方。実は魔力注入に来たんだ」
セルバさんの簡潔すぎる説明に、マークさんは意味が分からない、と眉根を寄せる。
「クリスちゃんの魔力はまだまだ少なくてね、体も魔力に慣れていない。一時的に僕の魔力を注入して循環させることで、魔力の通る回路を作ろうという試みなんだけどね」
セルバさんは事も無げに仰るけれど、やっぱり相当すごい事のよう。なぜなら、マークさんは口をぽかんと開けてしまっているのだから。