常連さんの正体
「レオさん…」
「よう、さっきぶり」
そして、その後ろにも。
「マークさんに、セルバさんまで」
寡黙なセルバさんは毎日朝一番に現れて本を読みながら静かに珈琲を楽しむ常連さん。
陽気なレオさんは今日みたいにランチタイムの終わりにやってきて、ひとしきり私をからかって帰る困った常連さん。
そして飄々としていて今ひとつ掴めない印象のマークさんは宿の長期宿泊客だった。
「彼らには、貴女の護衛と状況報告を頼んであったのですよ」
そうか…邸を出て半年、町の人の中に溶け込んでそれなりにうまくやってこれたと少し自信がついてきたところだったんだけど、実際は完全に守られて、泳がされていただけだったんだな、私。
「お母様はこちらの主の方とお話があるの。暫く待っていて頂戴ね」
お母様が女将さんと奥の部屋に消えて行く。中で何が話されているかが気になってソワソワしていたら、レオさんが意外な事を聞いてきた。
「クリスちゃんはさぁ、家に戻る気なのか?」
「まだ、分からない。今お母様と女将さんが何を話してるかも分からないし、お父様のお考えも分かっていないし」
「そうじゃなくてさ、クリスちゃんがどうしたいかって事」
普段ふざけてばかりのレオさんから、突然真面目にそんな事を聞かれて、思わずマジマジとレオさんの顔を見てしまった。
「そんなハトが豆鉄砲くらったみたいな顔しないでくれよ。だってさ、クリスちゃんここで働いてる時楽しそうだったじゃん。生き生きしててさ、忙しくてもいつも笑ってた」
レオさんの言葉に、他の二人も薄く頷いている。
「学園にいる時には見た事ない顔で、最初は別人かと思ったくらいだよ」
「えっ!?レオさんいくつ!?」
「クリスちゃんより1学年上、殿下と一緒だよ。ナニか?老けてるとでもいいたいのか?」
そうハッキリは言っていないけれど、確かにもっと年上だと思ってました…。
「え、じゃあマークさんとセルバさんは…?まさか」
「残念ながらそこまで若くはないな。俺は冒険者だ。これでも結構高ランクだよ。そしてセルバは宮廷魔道士だったか」
「だから、俺達の事はどうでも良いんだって!クリスちゃん学園にいた時辛そうだったからさ、心配なんだよ」
「そこまでです」
奥の部屋のドアが開くと同時に、お母様がにこやかな顔で現れた。
「クリスティアーヌ、主から明日お暇をもらってあるわ。邸で、お父様とじっくり話すのですよ」