無理は厳禁です
シャーリーも常々頑張り過ぎだと私の事を心配していただけに、事情が分かるまでは引きませんよ、という堅い決意をその瞳からビシバシと感じる。
別に隠す程の事でもないし、私は素直に事情を説明した。
「セルバさんが、魔力を流してくれたんですの」
「魔力を他人に流すなんて、そんな事が出来るんですか」
シャーリーもびっくりしているところを見るに、そんなにポピュラーな事ではないらしい。
「ええ、なんでも私はまだ魔力が低過ぎてすぐに魔法を発動させるのは難しいんですって」
「そうでしょうね、難しいだろうとは思っていました」
なかなか容赦がない。護衛も任務だとはっきり口にした事で、シャーリーの中でも抑えるものが減ったのかもしれない。いつもよりもはっきりと物を言ってくれる。
それが少し嬉しくて、私は思わず笑みを浮かべた。思わず口も軽くなる。
「それで、セルバさんが実験しようって仰って」
「実験?」
その言葉に、シャーリーは器用に片眉をピクリとあげた。実験という言葉に少し抵抗感があるみたいだけれど、そんなに大仰なことではないのよ?
「魔力を常に体の中に循環させて、体に馴染ませるんだそうよ」
「体に、馴染ませる……ですか。それで魔力を送ったと?」
「私も驚いたのだけれど、こう……手を取るだけで魔力を送り込めるだなんて不思議ね」
「むちゃくちゃですね」
「珍しい事なのかしら」
「少なくとも、魔力の譲渡などそう簡単に出来る事ではありません。しかも、その魔力に方向性を与えてクリスティアーヌ様の体内を絶えず循環するように、なんて」
知識が無さ過ぎてどれくらいレアな事なのかわからないけれど、シャーリーの様子から察するに、かなり特殊なことのようだ。
「やっぱり、すごい事なのね」
「勿論です。そのセルバ様という方、並みの使い手ではありません。ただ常々申しておりますが、クリスティアーヌ様は無理をしがちです。そのお方に触発されてこれ以上無理をなさらぬよう」
「大丈夫よ、私は何もしなくていいとはっきり言われているんですもの」
髪の毛を丁寧に梳いてくれながらも、小言をしっかり言ってくるシャーリーは、なかなか頼もしい。
「それはそうとシャーリー、寝る前に少しだけ手合わせをお願いしてもいいかしら」
「今日は三十分だけですよ? お店の仕事でお疲れでしょうし、まだ魔力の循環に体が慣れていないでしょうから、無理は禁物です」
真剣な様子でそう忠告してくれるシャーリー。私の体調を常に気がけ見守ってくれている事に安堵して、私はとても幸せな気持ちになった。