部屋付きの侍女シャーリー
ルーフェスとそんな話をしながら邸に戻り、自室に戻るなりだった。
「クリスティアーヌ様、魔術の訓練を受けたのですか?」
部屋付きの侍女シャーリーが、怪訝な顔で私の全身をしげしげと見つめてくる。
「いいえ、セルバさんには事情を話して、ちゃんと魔術の訓練はしばらく延期にして貰ったわ」
「ですが……お体に多量の魔力が巡っております」
「まあ、見えるの?」
私はすっかり驚いてしまった。魔力を視覚的に捉えられるのは、魔術を発動できるほどの魔力を持つ人のなか、さらに「見る」センスが必要なんだって、セルバさんが言っていたから。
「はい、魔術は多少心得があります」
なんと有能な。
知らなかった、なぜならシャーリーは普段は本当に普通のおとなし目の侍女なのだ。浅い金色の髪をきっちりとひっつめた小柄な女性で、仕事は早くて適確。所作は丁寧で粗暴なところなど微塵もない、理想的な侍女が彼女だ。
その印象が少しずつ変わってきたのは、この三週間ほどのこと。
あれは初めてマークさんに護身術の型を習った日だった。自室で空いた時間を見つけては、型を忘れないように練習をしていた私に、シャーリーがこう申し出てくれたのがそもそものきっかけ。
「クリスティアーヌ様、その……私、練習相手を致しましょうか?」
たぶん一人で黙々と体を動かす私を見兼ねて、シャーリーは声をかけてくれたのだろう。
「いいのよ、ダンスのステップと同じで型の訓練くらいはできるもの」
「ですが相手がいた方が実践には近くなるのでは? 私、こう見えても少々武術の心得がありますので」
私はとても驚いた。この小柄で華奢な女性が多少なりと武術の心があるだなんて。
でもそういう事なら断る理由はない。単に型の練習をするだけよりも、組手のようなことができた方が絶対にいいに決まっているもの。
実際に相手をして貰えば、確かに身のこなしはとても俊敏だし、体幹がしっかりしていて攻撃をこちらがしかけても流麗な動きでするりと躱されてしまう。
マークさんとはタイプが違う、女性ならではのしなやかな動きだった。
それだけでも驚いていたというのに、さらに魔術にも心得があるだなんて……シャーリーっていったい何者なの?
そんな気持ちが顔に出ていたのかも知れない。シャーリーが僅かに苦笑した。
「私はクリスティアーヌ様の護衛も業務の範疇にございます。お体に変化がないかは常に最大の関心事ですので」
「まあ、そうだったのね」
お父様の周到さには恐れ入る。ありがたいと同時に、少しだけ呆れてしまった。侍女まで護衛要員だったなんて。
「それで、そのお体を巡る魔力はいったい」