見えていないだけで、問題は点在する
ルーフェスは私と目を合わせたまま、僅かな時間沈黙した。
「……難しいだろうね」
真面目な顔で返された答えは、彼がしっかり考えた上で答えてくれたことを示している。何らかの根拠があって、ルーフェスはそう判断しているのだろう。
「理由を聞いてもいいかしら」
「ああ。辺境の村ガレーウは険峻な山脈地帯に位置しているんだ。だからこそ、この温暖な王都とは違う植生があるんだけどね」
「ええ」
確かに、気候や地質に大きな差がないと、あそこまで変わった植物ばかりが生育はしないわよね。
「王都から馬車を飛ばしても片道三週間はかかる程、まず距離が離れている」
「……かなり遠いのね」
「辺境というからには、そりゃ遠いよ。物理的に遠い上、道も悪い」
私はこの王都と、かなり近い位置にあるお父様の領地しか知らない。どちらも道はしっかりと大きめの石畳で舗装されていて、馬車にのっていても揺れに困らせられた事はなかった。
でも、きっと辺境に行けば行く程、道路事情は悪くなっていくだろう事は想像に難くない。
「道が悪いとスピードも出ない上にせっかく仕入れた物が衝撃で傷みやすくなったりもするからね、商人にも敬遠されるんだ」
「あ……確かに。鉱物ならまだしも、果物とかの食品類は影響が大きいでしょうね」
そう考えたらブルーフォルカなんてよくぞ美しいまま運んで来たものだ。柔らかいし水分も豊富だから傷みやすさで言えば最たるものだろう。
「しかもあの近辺は山賊もいるし」
「山賊」
思わず口が開いた。
やっぱり、本当にいるんだ。
確かに座学の一環でその単語とは遭遇していたけれど、初めて実感を持った感じだ。
「ああ、以前この話は父上ともしたことがあって。生活が厳しい地域ではどうしても一定数の賊が出てしまうんだ。頭が痛い問題だよね」
「まあ、お父様も頭を痛めていらっしゃるの?」
「そりゃあね。王都やその周辺だけ良けりゃいいってわけじゃないからさ。しかもそういう辺境には兵士や冒険者も少ないだけに魔獣の被害も多いんだ」
「冒険者って、辺境にも多いイメージだったのだけれど」
「ある程度のデカさの村や町ならギルドもあるけど、人口も少ない農村じゃ無理だよ」
話を聞けば聞くほど、辺境の村は厳しい環境だ。むしろよくそんな中、商人達も商隊を組んでまで物資を運んでくれたものだと感心する。
「……辺境の方たちは、この王都に住まうよりもずっと過酷な環境で暮らしているのね」
本当に、想像していたよりも、ずっと過酷だ。
「そう、そしてそこへの行き来もかなり困難だ。遠くて、危険で、運ぶのにも気を遣う。商人たちには魅力が薄いと言わざるを得ない」
終始ルーフェスが渋い顔なのは、お父様とこの話をした折にも、簡単には改善できないという結論に至ったからだろう。
せめて道だけでもなんとかならないんだろうか。
商人たちが安全に行き来できれば、村の産物も換金できて村が潤うだろうに。