情報は意外なところから
少しお店が落ち着いたら、あの珍しい食材について女将さんに聞きたいと思っていたのだけれど、ありがたいことにその日私が帰るまで、お店はずっと忙しいままでゆっくり話すことすらできなかった。
カナフェは私には苦すぎたけれど、オジサマ方は皆とても美味しそうに食べてらしたから、もっと頻繁に食べられればいいのに。
そう、ブルーフォルカだってとても美味しかったわ。あれだってもう次はいつ食べられるのか分からないなんてちょっと寂しい。
迎えに来てくれたらしいルーフェスと二人、邸へ帰る馬車にゆられながらも、私は完熟したブルーフォルカの濃密な甘さを思い出してうっとりしていた。
「どうしたの、姉さん。ニヤニヤして」
「えっ」
ニヤニヤしてた!?
カアッと頰に血が集まった気がするけど、対面で座っているから隠しようもない。
情けない……。美味しい物を思い出してニヤついてしまうとは、レディにあるまじき事だ。
「で? 何考えてたの?」
面白そうに目を細めて、ルーフェスがさらに聞いて来る。仕方なく、私は白状することにした。
「今日、お店でカナフェとルパナという珍しい食材を見て」
「ああ、辺境のガレーウが原産の植物だね。そういえば久しぶりにそっちからの商隊が到着したと報告が上がっていたな」
「まあ、ルーフェスったら詳しいのね」
「父上について仕事をしてる事も多いから、これくらいは」
ちょっと照れたように笑うルーフェス。頼もしい、と思う一方で私にはちょっと悔しい気持ちも生まれてしまう。
年下のルーフェスの方が、確実に知識が豊富なのをこうして随所に感じるからだ。
かなり頑張って勉強しているつもりなんだけれど、やっぱり幼少期からコツコツと真面目に勉強してきたルーフェスと、半年前から必死になった私とでは知識の広さや深さが違う。
悔しいけれどこれが現実だ。
範囲が決まっている学園の試験ならば、なんとかグレースリア様ともいい勝負ができるようになったけれど、まだまだ私は努力する必要がありそうだ。
「それで? カナフェとルパナでなんでニヤニヤするわけ?」
「その流れで、ブルーフォルカを思い出してしまって」
「ブルーフォルカ?」
「ええ、先だってカーラさん達とカフェ・ド・ラッツェに行ったと話したでしょう? そこで宝石のように美しい、青いケーキをいただいたの」
「それが、ブルーフォルカ? あまり聞かないね」
「まあ、とても面白い果実なのよ? 熟し方によって色合いも味も様々で。熟した実はとても甘いのよ」
「なるほど、それを思い出してニヤニヤしてたわけか。姉さん、甘いもの好きだよね」
くくっ、と堪える様にルーフェスは笑っている。ルーフェスと他愛もない話をできるようになったのは嬉しいけれど、こうしてちょいちょい揶揄われるのは姉として少し情けない。
「皆、珍しい食材をとても楽しみにしているみたいなの、もう少し頻繁に手に入らないものかしら」
気恥ずかしさを払拭するように、私はそう切り出した。