不思議な食材の出所は
どうしても気になって、私は冒険者のオジサマ方に話題のカナフェとルパナについて聞いてみることにした。
「あの、カナフェとかルパナってあんまり聞いたことがないんですけど」
そう言ったら、あちゃー!と思いっきり天を仰がれてしまった。
「クリスちゃん、そりゃーダメだ、人生を損してる!」
「そこまで!?」
「ああ、カナフェはなあ、ちょっとほんのり苦げえのがこれまたうまいんだ」
「うんうん、天ぷらもうまい」
「うむ、バーグ酒にあうな。この時期に山間部で僅かしか採れぬというのが誠に惜しい」
お髭のオジサマまで会話に加わったところを見るに、本当に美味しいんだろう。でも、なんかこの前も、似たような話聞いたわよね?
「それって……もしかして商隊が運んできてくれた……?」
「お、そうそう。なんだそこは知ってんのか」
「はい、先日カフェ・ド・ラッツェで、宝石みたいな青い果実を食べたんです」
「あー、じゃあ一緒だ。辺境の村から届いた特産物だな」
冒険者のオジサマ達は、納得、という顔。どうやら同じ商隊が運んで来てくれた物らしい。
「せっかくだ、食ってみな」
陽気な赤毛のオジサマが、カナフェの肉巻きをひとつ摘んで私に差し出してくれたけど。
「皆さんの好物なんでしょう?せっかくだから食べてください」
「俺達ゃ結構食ったしな。また暫くは食えねえんだ、味を覚えとくといい」
なぜかニヤニヤしているオジサマから有り難くひと口サイズの肉巻きを受け取って、口に放り込む。
途端に、思いがけない程の苦味が口内を襲った。
に……がっ!
苦い! ほろ苦いなんてもんじゃない。
目を白黒させていたら、オジサマ方に大爆笑されてしまった。
「頑張って噛め!」
「すげえ苦いのは一瞬だ、すぐに甘みがくる」
「うむ、その後にくる肉の旨味も捨てがたい」
あ……ほんと。
なぜだろう、苦味は急速に口の中で消えていき、さっぱりとした後味の中に甘さが顔を出す。
そして、刺激された味覚に、お肉の脂身の優しい旨味がゆっくりと浸透していく。
美味しい……。
後味は、確かに美味しい。
でも、苦かった!
「ははは、お子様にはちょっと苦味が勝ったか?」
「そこをルパナで和らげるんだ」
「うむ、そのコンボも良し。苦い酒で迎え撃つのもオツだがな」
与えられるがままに、今度は蒸したルパナを口の中に放り込む。
ふんわりと湯気をあげていた、ホックホクな実の部分も美味しいけれど、その中から出て来たトロトロの甘いところが超絶美味しい!
優しい甘さに舌が癒される……。
「はははっ、幸せそうな顔だなあ」
「やっぱお子様にゃルパナの方がウケがいい」
かなり笑われてしまったけれど、それでも貴重な食材を味見できたのはラッキーだった。特にルパナは本当に美味しい!
「おーいクリスちゃん。幸せそうなのは何よりだが、俺らにも幸せを運んでくれー」
他のお客様の声にハッとする。
いけない! ついついこの席に長居してしまった。まだまだ注文は引きも切らないのに、失態だ。
オジサマ方にお礼を言って、私は自分の仕事を全うすべく、料理を受け取るために厨房へと急いだ。