セルバさんはなんだか怖い。
「やだなあ、そんなポカンとした顔しないでよ。実験には付き合ってくれるんでしょ?」
さりげなく念押しされて思わずコクコクと頷いたら、セルバさんはニンマリと笑みを浮かべた。
「うん、それなら何の問題も無いよ。どっちみち、実際に魔法を教えるのはもう暫く先の話かなって思ってたんだ」
「そうなんですか?」
「うん。前回、前々回って魔力特性を見させて貰ったんだけどね?」
「はい」
「結構魔力が少なくて、すぐに発動まで持っていくのは無理だったんだよね」
なんと、そもそもそこからだったのか。
意識せずに随分と無理な事を言ってしまっていた事に今更気付いて、恥ずかしいやら申し訳ないやら……私は赤面しながら謝る事しか出来なかった。
なのに、セルバさんはますます笑みを深くする。
「やだな、だからいいんじゃないか」
なんだろう。笑みが怖い。
「魔力の適正が少ない上に、この年齢から挑戦しようなんて子、本当にレアなんだよ。こんなに実験しがいのあるシチュエーション他にないから!」
満面の笑顔でそう言われて、若干笑顔が引きつってしまったのは否めない。
セルバさんの中ではすでに私は魔法を教わる生徒の位置付けよりも、『一定年齢を超えてからの魔法習得』だか何だかの被験者になってしまっているらしい。
「それで僕、考えたんだけどね。ちょっと手を出してくれるかい?」
「は、はい……」
勢いに押されて思わず手を出してしまった。
エスコートするような優雅さで私の手を取ったセルバさんは、そのまま柔らかく私の手を包み込む。
魔術師だからかしら、セルバさんの手は男の方にしてはとても柔らかくて繊細だった。マークさんやレオさんのように剣だこも見えなければ、色までも私に劣らぬほど白い。少し骨ばっている事だけが、男の方の手だという事を私に僅かに伝えてくる。
「クリスちゃんは何もしなくていいからね」
そう告げて、セルバさんはゆっくりと目を閉じた。
どうしていいか分からずに、セルバさんの様子を窺うしかできない私は、必然的にセルバさんのお顔をじっくり見つめる時間を得たのだけれど。
こうして見るとセルバさんは手も繊細だけれど、お顔も繊細な作りかも知れない。
細面の青白い顔に薄い唇、まつ毛も長くて少し女性的な風貌にも見える。いつもは黙々と何か本を読んでいらしたからこうしてお顔を見つめる事なんてなかったけれど、今日は楽しそうなお顔も悪巧みをしていそうなお顔も、そしてこんな冷静なお顔も見ることができてなんだかとても親しみが持てた。
お顔をまじまじと見つめていたら、セルバさんの切れ長の目がゆっくりと開く。