たくさんの疑問符
「殿下がリナリア嬢への嫌がらせを理由に婚約破棄を宣言した時さ、本当は姉さんが反論か諫言するのを父上も僕も期待してたんだ」
「えっ…」
「僕、本当にそんな事したのか、って聞いただろ?姉さんが根も葉もない事あんまり素直に受け入れるもんだから、正直焦ったよ」
ルーフェスは、あの時から既に冤罪だと分かっていてあの場にいたというの?
「どうして父上はそんな回りくどい事をさせたと思う?」
そして、父上も最初から知ってたんだ。そう…だよね、考えれば当たり前かも知れない。学園内の事とはいえ、お父様なら情報を入手する手段なんていくらでもあるもの。
それなのに。
どうして、私が諫言すらしない事を放置されてたんだろう。
どうして、殿下が断罪や婚約破棄を宣言する場に横槍が入らなかったんだろう。
どうして、半年も経った今になって、ルーフェスは殿下を連れて来たんだろう。
どうして…今になって、そんな話をするんだろう。
「父上が何を考えて、何をしようとしてるのか、考えてみた方がいいかも知れないよ?この後母上が来るみたいだし、近々姉さんとも直接話すって父上言ってたから」
…ゴクリ、と思わず喉が鳴った。
断罪も婚約破棄も、乙女ゲームだから当たり前だと思ってたけど…事はそう簡単じゃないんだ。あの裏にはきっと、お父様はもちろん様々な人の様々な思惑がひしめきあっていたのだろう。
「じゃあ、僕も女将に挨拶したらそろそろ帰るよ。今は大事な時だから、あんまり長く殿下の側を離れるわけにもいかないし」
言うだけ言うと、ルーフェスは私の横をすり抜けて店の奥へと向かう。それを見て慌てて私も後を追った。せめて女将さんに、騒ぎを起こしてご迷惑をおかけした事を謝らなければ。
昼時の喧騒が過ぎ、宿に入るには微妙に早い15時から16時の1時間、この宿屋兼食堂『テールズ』は一時的に店を閉じる。休憩と宿屋としての準備を整える時間なのだ。
その時間に合わせるように、お母様は『テールズ』に現れた。
「クリスティアーヌ!」
満面の笑顔と弾むような足取りで現れたお母様は、会うなり激しい抱擁を下さった。
「お母様…」
「やっとこうして話せるわね、クリスティアーヌ。貴女に見つからないように、何度かお忍びで様子を見に来た事もあるのですよ?」
「お母様…私…私…本当に、ごめんなさい…!」
優しく微笑んだお母様は、そのまま女将さんの方へ歩を進める。
…ただ何故か、その後ろに見覚えがある人達が付き従ってるんだけど。