実はスタートラインにも立てていなくて
不安が完全に拭えたわけではないけれど、グレースリア様とレオさんの助言のおかげで随分と気持ちが楽になった。
「お二人のおかげで、随分と頭がすっきりとしました。実は魔法の方はまだスタートラインにも立てていなくて」
「まあ」
「たぶん、さっきのお話と一緒であれこれ手を出しすぎてどれも集中できていない、という事なんだと思います」
「魔法は特に幼少時からの訓練が重要だと聞きますものね」
グレースリア様も深く頷いてくださる。
「それに学園の勉強もマナーやダンスもやっているのでしょう? さすがにやりすぎではないかと密かに心配していたんですわ」
「そうだよ。効率が悪くなるってのもあるけどさ、体を壊したら何にもならない」
「はい……なんだか私、焦ってしまっていたようです」
二人の表情で、すっかり心配をかけてしまっていたのだと気づいて、私はすっかり申し訳なくなってしまった。これまでの分を取り戻さないと、って気持ちばっかりが先走って、色々詰め込みすぎていたんだわ。
邸に戻ると決めた時、誓ったことがある。
今までの不義理の分も、それまでは不要になると思って手を抜いていた勉強やマナーも、全部しっかりやろうって思った。
その上で人の役に立つことがしたいし、できれば迷惑をかけないように強くなりたいと思った。
でも。
それで心配かけてるようじゃ本末転倒なんだわ……。
必死になるあまり、周りの事が見えなくなっていたのかも知れない。自分の限界も考えて自己管理できてこそなんだと、気づかせて貰った。
「クリスちゃん、魔法の方はしばらく置いといた方がいいかも知れないな。セルバに話通してさ」
「そうですね……私からお願いしたことなのに、勝手な事ばかりで心苦しいですけれど……」
「きっとわかってくださいますわ」
そんなやりとりを受けて、その週末、私は早速セルバさんにその件を相談した。
「ああ、別にいいよ」
実にあっさりと。セルバさんは首肯する。
結構過去2回の訓練の時は楽しそうな様子だったから、もう少し別な反応があるのかと思っていたのだけれど。
「ごめんなさい、私から言い出したことなのに」
いい研究材料だとも言っていたのに、本当に申し訳ない。
「いや、ちょっと時間かけた方が良さそうだなってちょうど思ってたから」
「?」
「完全に諦めたわけじゃないんでしょ? 今はやることが溢れてるから、またそのうちって事だと理解したけど」
なんとおおらかな方なのか。うっすらと笑顔を浮かべたまま、問題ないと請け負う彼にもはや感謝しかない。
いつもテールズの隅の席で周囲に興味なさそうにコーヒーを口に含んでいる彼は、少し厭世的な印象があったけれど、こうして話してみると普通に優しい殿方だった。
「だから、僕の実験には付き合ってもらえるってことだよね」
「え?」