レオさんの指南
顎に手を当てたまま、暫く考えていたレオさん。
何か思い当たる事でもあるのかと凝視すれば、私の視線を感じたようで目を合わせてニッコリと笑ってくれた。
「クリスちゃん、俺ちょっとアイディアあるんだけど、やってみない?」
「は、はい!」
すごい! 私なんて考えても解決の糸口すら見つからなくて困っていたというのに、レオさんったらこんな短時間で……!
「まだ何も言ってないのにそんな尊敬の目で見るのやめて……」
「そうですわよ、もしかしたら検討の余地も無いほどくだらない意見かもしれないのですから、全ては話を聞いてからです」
「それはそれで酷い!」
相変わらず息があった様子のグレースリア様とレオさんのやりとりを聞いて、クスリと笑いが漏れる。
従兄弟だと言っていたけれど、本当に仲がいい。
「それで? 何を思いついたのかしら」
「いや、多分だけどさ。今出来ないのは当たり前でさ、技術も経験もたりないからなんだよね」
ぐ……それは、その通り、ですけれど。
「で、そんな段階で習った型をあれもこれも同じレベルで実践しようとしても混乱して難しいと思う。集中してひとつずつ確実に対処出来るようにして行く方がいいんじゃないか?」
「集中……」
「そう、習った型はいくつくらいある?」
「ええと、前から襲われた時用のが二つ、後ろからのが四つです」
「前からの分も結構混乱する?」
「はい……見分けられなくて」
そう、だから落ち込んでいるのだ。後ろからの攻撃ならまだしも、前から襲われた時ですらうまく対応出来ないのって、かなりダメな気がするんですもの。
でもレオさんは「なるほど、なるほど」と頷いて、私に習った型を披露するように指示をした。
「腕を取られた時の対処と、打撃を受けそうな時の躱し方だね」
そうやってひとつひとつ丁寧に私から話を聞き出しながら、結局レオさんはいくつかの事を提案してくれた。
主な方針は三つ。
まずは、あれこれ全部練習するんじゃなくて、体が覚えるまでひとつかふたつの型を集中して練習すること。相手の手や体の動きで条件反射みたいに体が動くようになるまで。
でも、言われてみればそうかもしれない。ダンスの練習の時もひとつの曲を完璧に出来るようになるまで繰り返し練習する。いくつもの曲を同時に練習することなんてほとんどなかった。
一連の流れを体に覚えさせるのが大事なのね。
次に、観察力を高めてイメージトレーニングすること。
今は自分の動きをどうすればいいのかにも気を取られて、相手の動きをよく見ていないんじゃないかって指摘は、ものすごく納得感があった。
前からくる人なら初動に特徴がある筈だし、後ろから来る場合でもどこに手がかかったら初手をどう動く、というのをセットでイメージトレーニングする事で実践しやすくなる筈だと。
歴史の年表を覚えるのと一緒で、ひとつ思いだせばズルズル記憶が一緒に出てくるように、関連した事項として記憶するのが大事なのかもしれない。