学園にて
マークさんにはそう言われたけれど、冷静な目で技を止められる度に無力感を感じるのは仕方がない。
精一杯、自分としてはフルスイングで技を繰り出しているというのに、「ハエが止まるぜ」と言わんばかりに軽〜い手足の動きで軌道を変えられてしまう。
護身術を習っているというのに、こんなに躱されるとは思わなかった。
もちろん『型の練習』のフェーズではしっかり受けてくれるんだけど、いざ実践となると容赦がない。
才能ないのかなあ、と思わずため息。
「まあ、ため息だなんて珍しいですわね」
その声にハッとして顔を上げる。目の前には面白そうに笑うグレースリア様がいた。
「ごめんなさい、せっかく付き合っていただいてるのに」
グレースリア様に勉強を見ていただいていたのに、うっかり昨日のうまくいかなかった訓練の事を考えてしまっていた。
グレースリア様に失礼だわ。
集中、集中!
「ふふ、嫌だわ。何を考えてたのか教えてくれてもいいでしょう?」
イタズラっぽく笑われて、私はすぐさま観念した。グレースリア様に詰め寄られてシラを切り通せたことなんかないんですもの。
「実は今、護身術を習っているんですの」
「まあ、影宰相がよくお許しになったこと」
「私が勝手に。お父様も黙認してくれている、という状態です」
「あら、意外とお転婆ですのね」
ほほほ、と屈託なく笑うグレースリア様。この方は大概の事では眉を顰める事すらしない、驚く程懐が深いのだ。
「ただ、上達しなくて」
「何言ってんのさ、まだほんの二、三回しかやってないだろう?」
「!」
急に後ろから話しかけられて、思わず固まった。
「レオ、挨拶も無しに会話に入ってくるだなんて礼儀がなっていなくてよ」
「ごめんごめん、でもさ、聞き捨てならなかったから」
片眉を器用にあげて睨みを利かせたグレースリア様の様子にも、レオさんは全然気に留めた様子もない。
グレースリア様とお話ししていると、こうしてよくレオ様もおいでになる。生徒会のお仕事も忙しいだろうに、いつもにこやかに楽しいお話やためになるお話をしてくれるレオさんは、私にとって今やとても頼もしい先輩になっていた。
「いやホント、だってクリスちゃんさ、あいつらに訓練頼んでからまだ一月もたってないだろ? 」
「はい」
「何回め?」
「二回めです」
「で、今何やってんの?」
問われて、一通りマークさんに教えていただいている事や、実践で困っている咄嗟の判断力の低さを事を話してみる。
レオさんは「ちくしょう、マークのヤツ」とか「いいなあ」とか、ブツブツ言いながら聞いてくれていたけれど、私の悩みのところに話が至ると、急に真剣な顔になった。