上達へのステップ
「腰を落とせ! 振り抜きが遅い!」
容赦なくマークさんの怒声が飛ぶ。
週に一度テールズでお手伝いをするたびに、私はこうして約束通り訓練を受けている。
テールズがこみあうのは朝の市が終わって朝食が終わるまでと、昼食時。夜は夜でものすごく混むけれど、私は翌日は授業に出なくてはならないから、夜の部は今は控えている。
よって、そのぽかんとあく休憩時間、朝の10時~11時くらいと午後の3時~4時くらいの時間が私の自由時間だ。ささっと手早くご飯をかきこみ、空いた時間で集中して私は訓練を受けていた。
マークさんとセルバさんは隔週で担当してくれるから、今週はマークさんに武術系を習い、来週はセルバさんに魔術を習う、といった寸法だ。
と言っても、じつは訓練はとても難航している。
正直、子どもの時からダンスをずっとやっていたし、体術くらいなら何とか様になるんじゃないかって、ちょっと舐めていた。
全然、違う……!
いや、型があるところは似ている。似てはいるけど。
まずは一番役に立つ事を、とマークさんが護身術を教えてくださるんだけど、相手の動きを瞬時に判断して必要な技を繰り出すなんていつになったらできるようになるんだろう。
正面から腕をつかまれた場合、背後から確保された場合、それぞれにもちろん対応が違うし、何よりやってみてわかったのは初動の判断がとても大事だという事だった。
相手がまだ素人の無頼漢ならまだしも、私を狙うような人物なら手練れの可能性もある。非力な私がそんな人に一撃を与えられるとしたら、反撃してくるとは思っていない初手でどれだけの動きができるかという事がカギになるだろう。
一つ一つの型は、マークさんが丁寧に教えてくださったおかげで、なんとか理解できたし毎日の自主トレで様になるようにはなってきた。
私の今の課題はスピードと腕力、そして判断の遅さだった。
特に判断力の部分が厄介で、実戦練習に入った途端「えっと、これはどの型で対応すべき……?」と一瞬どうしても迷ってしまう。そしてその一瞬で初動が鈍ってしまうのだ。
マークさんくらい力が強くて俊敏な人が相手だと、初動が鈍るだけで反撃のチャンスなんて簡単に潰えてしまう。あっさりと抱き込まれ、動きを封じられてしまうのが関の山だ。
「……全然、うまくいかない……!」
午前の部は全戦全敗、午後の部も一回だけちょっといい感じに抵抗できただけで、あとは全敗だった。
はあはあと息を切らしている私とは真逆で、マークさんは涼しい顔なのも悔しい。
「まあ、まだ訓練初めて2回目だ、こんなもんだろう」
「そ、そうでしょうか……」
「こういう類は数をこなすしかない。大体はなんの想定もない時に、いきなり事件ってのは起こるもんだ。頭で判断するより、条件反射で体が動くようになるまで体に叩き込んでいく方がよっぽど実戦では役に立つ」