青い果実の秘密
「甘い……!」
トロリと蕩けるような、濃厚な甘みが口に広がる。最後に僅かな酸味があるけれど、果汁にはとろみまであるように感じる……そう、メイプルシロップばりの甘さだった。
「ええ? そう? なんか酸っぱい!」
カーラさんは言葉の通り酸っぱそうに顔をゆがめている。顔の中央にぎゅっとパーツが寄っちゃったような、酸っぱい感丸出しの表情だった。
「そんな事ないわ! 甘みと酸味のバランスが絶妙じゃない、素晴らしい味わいだわ~!」
エマさんは絶品!と言わんばかりにほっぺたを押さえて悶絶している。三者三様、といってもあまりに意見が違いすぎじゃないだろうか。
不思議に思った私は、互いの皿の上のケーキをよく観察してみた。
カーラさんのケーキは特に色が薄い部分が多く、青と緑が混ざったような薄い青緑のグラデーション。
私のケーキは、一番色が濃くて鮮やかな青もあれば濃紺から紫檀まで深い色合いも多い。
そしてエマさんのケーキはその中間色。濃い粒もあれば色の薄い粒もあるけれど、おおむね青らしい青の粒が揃っている。
「……熟し方が違うのかも知れませんわ」
「え?」
口直しなのか、コーストリッチェティーを勢いよく飲んでいるカーラさんが、驚きの声をあげる。その眼にはうっすら涙があった。本当に酸っぱかったらしい。
「ほら、それぞれのケーキ、色味の濃さがかなり違いますでしょう? 熟し方によって色も味も変わるのかも」
「え、ちょっと食べてみてもいい?」
「どうぞ」
私の皿のケーキを口に含んだ瞬間のカーラさんは見ものだった。
目を大きく見開いて、口を押えたまま私を見つめること数秒。
「あ……まっ!!!!」
「でしょう? 甘いでしょう?」
思わずうふふ、と笑いが漏れる。そう、本当に濃厚な甘さだったんですもの。
「ええっそんなに違うの!? わたしも! わたしも食べていいかな」
「ええ、食べ比べましょう? たぶんエマさんのケーキが一番バランスいいと思いますわよ」
そうして私達はひとしきり「酸っぱい!」だとか「甘い!」だとかわいわいと味の違いを楽しんだ。
やっぱりエマさんのケーキは本当に絶品で、口の中でぷちっと果汁がつぶれる瞬間、みずみずしい果汁が口の中に広がる。上品な甘さのあと爽やかな後味が残されて、それがスポンジのほんのりした甘さと絶妙にマッチしてとても美味しい。
本当に、三つとも全然別のケーキみたいに味が違って感じられる。
「どうだ、面白い果実だろう?」
あんまり騒いでいたからか、いつの間にか店主さんが後ろに立っていた。