まんまる青い果物
果たして甘いのか酸っぱいのか、意外にも苦いのか。
大量にトッピングされてるんだからまさか激辛とかじゃないだろうけど、味の想像がつかない。ふと個性的な香りのドリアンが脳裏に浮かんで、はしたないとは思いつつそっと鼻を近づける。
うん、甘くてフルーティーな香り。
多分不味くない香りだ。
ツヤっと光るこのまんまるで可愛い果実は、大きさはほぼ同じだけれど色合いがどれも微妙に違っていて、青ってこんなにたくさんあったんだと少し驚くほど。
サファイアくらい鮮烈な青もあればアクアマリンくらいの優しい青まであって、まるで宝石箱を開けたように綺麗なケーキ。でも、ちょっとお高い。
「お! お嬢さん目が高いね」
このカフェの店主だろうか、まだ若い快活な殿方が話しかけてきた。
「あまり見ない果物だと思いまして」
「ああ、こりゃあ昨日久々に入荷したばっかりなんだ。ブルーフォルカっていう今が旬の果物さ」
「旬? えー、それにしちゃ果物屋さんでも見たことないけどなあ」
店主の答えに、カーラさんも疑問を持った様子で、「おっかしいなあ」と言いながら首をひねっている。エマさんも興味津々、キラキラした瞳でケーキ見ていることからも、この果物はやはり珍しいものだろうと思えた。
「まあな、辺境の村から時々しか入荷しないレアものだ。王都や周辺の街や村は栄えてるけど、離れるほど道も悪いし商隊もわざわざ足を伸ばさねえからな、どうしても稀にしか入らねえ」
「綺麗……! 美味しそう……!」
いつの間にかエマさんの瞳が蕩けそうな熱を帯びていた。確かに甘いものと可愛いものが大好きな彼女にとって、あまりにも魅惑的過ぎるケーキかも知れない。でも、本当にちょっとお高いと思うけど。
「ダメだよエマ、結構高いよ? ケーキが2個買える値段だからね?」
「でも、今日は特別……だってお祝いなんだもの」
夢見るようなふわふわした笑みを見せるエマ。店主はここぞとばかりに推してくる。
「それにするかい?」
「え、私今日はこのカフェで一番人気と噂のラッツェが食べたいのですけれど……」
何度も話に聞いたラッツェ。ひとくちサイズのパイ生地の上にふんわりスポンジ、その上に果物やクリーム、チョコレート、ビーンズや少し辛めのものなど様々なものがトッピングされた目にも楽しい一皿らしい。
日によってトッピングが変わるとあってみんなでシェアして食べるのも楽しいんだとか。これなら値段も手頃だし、何より本当に食べてみたかったんですもの。