誤解だと正直に言ってしまいたい…
「あのクリスティアーヌ嬢がねぇ…ていうか馴染み過ぎじゃない?」
殿下の付き添いで来たんだろう、宮廷魔道士でもあるフェインさんが独りごちる。
馴染み過ぎなのは許していただきたい。前世のバイト先が有名ファミレスのチェーン店だったから、ホールの仕事は私にとってホームグラウンドなんだ…。
フェインさんは純粋に驚いているようだけど、その横に座っていた騎士団長の御子息、ガルア様は私を酷く睨みつけている。
「ふん、万事控え目で淑やかな令嬢を装って陰でリナリアを迫害したかと思えば、今度は庶民に混じり媚を売る…正体を見せぬ賢しい女狐め」
う…酷い言われよう。
控え目だったのは目立ちたくなかったからだし、リナリア嬢に関しては冤罪だし、庶民に媚売るって言われても当たり前だよお客様なんだもの…。
とは思うものの、殿下サイドから見たらそう見えるのか…不本意ではあるけど、納得かも知れない。
「姉がここで働いているのは父も把握している事です」
えっ!!!?
「姉が自ら街に下り庶民の中に身を置いて自らを省みるというならそれも殿下のお心に適うだろうと」
いや、いやいや、そんな立派な気持ちじゃなかったから、私…!
「勝手な真似を致しました事、私からも深くお詫び致します」
「…よく口が回る事だ。賢しいのは父親譲りか」
「お褒めに与り光栄です」
バチバチと冷たい火花を散らすガルア様とルーフェスを抑えつつ、殿下は私から目を逸らしながらこう言った。
「まさか君が…私の言をそこまで真摯に受け止めているとは…」
違う!!!
と叫びたいけど、出来ない。何故なら我が弟から尋常じゃない「何も話すな」オーラが放たれているからだ。
おどおどしている内に、殿下は「また来る…」と力無く呟いて行ってしまった。
ああ~…誤解です殿下…!
半年前の私レベルの勘違いをしたまま、殿下が城に帰ってしまった…どうするのコレ。大体半年も経った今になってどうしてこんな事に…。
訳が分からなくて、一人残ってお茶を飲んでいるルーフェスに、おずおずと話しかけてみる。
「あの…さっきはありがとう。でも…どうして?」
「僕は最初から父上の命で殿下の側にいるんだ。それに、姉さんが謹慎の命を破って出奔した後始末、誰がやってると思ってんの?」
うぐぅ……
「そ…それは…」
「父上8割、僕2割。その一環だよ」
「ご…ご迷惑をおかけしました!」