カフェ・ド・ラッツェでお祝いを
「ねえねえ、何食べるー?」
私は今、可愛い女の子二人に囲まれて、至福の時を過ごしている。
あの日結局マークさんとセルバさんに護衛と講師のお願いを無事終えたあとは、小一時間ほどとても楽しくテールズのウエイトレスをやらせてもらった。
さすがにお母様も一緒だというのに終日居座るわけにもいかず、名残惜しいと思いながらも店を後にして、お母様と街を散策する。
お母様と街を歩くのはとても楽しくて、すごく勉強にもなるのが嬉しい。
馬車が走り抜ければ辻馬車の起源やちょっとしたエピソードなんかを話してくれるし、単なる石畳が実はお父様渾身の公共事業だったなんて話も聞けて、クリスとしてこの町で生活していた時にはなんら気にしていなかった事にも様々な歴史があるのだと感じられた。
土曜日はお母様と街を散策。日曜日はテールズでウエイトレス。
それが、今後の私の生活スタイルになりそうだった。
そうなると、学園のお友達と街に行くのは当然放課後が都合がいい。そんなわけで今日は、カーラとエマと一緒にカフェ・ド・ラッツェという人気のケーキ屋さんに来ているのだ。
私が試験で学年トップをとったお祝いにふたりがおごってくれるんですって。
シンプルなワンピースの制服のまま、縦ロールの髪を揺らしてこの町でケーキ屋さんに入るなんて初めてのことで、なんだかとてもわくわくする。
もう思い出すこともだいぶ少なくなったけれど、日本での友達との学校帰りの買い食いって、こんな感じだったよね。
どうでもいい馬鹿な話ばっかりして、食べるもの全部スマホで撮って。あの髪型かわいいとか、バレない薄めのメイクがどうだとか、どこの学校の何々君がかっこいいとか。
そんな何でもないことが、今思うと宝物みたいにキラキラと思い出される。
「ほら、早く決めないと」
「言っておくけど、私たちは庶民だからね? 懐具合を想定して選ぶように」
思わずぼんやりしてしまった私をやんわり急かしてくるエマも可愛いし、「高すぎるものは却下!」とはっきり言ってくるカーラはわかりやすくて大好きだ。
「どれにしようかしら」
あんまり待たせるのも悪いので、真剣に店先のサンプルを吟味する。
邸で出てくるデザートもいつも素晴らしいと思っているけれど、ここのお店も負けてはいない。さすが大人気のカフェだけあって色とりどりのケーキはどれもとてもおいしそうだった。
うわあ……この白い粉が降りかけられたカップケーキ、可愛い。ホワイトチョコで1枚の羽根を形作ってちょこんとケーキに乗せてある。すごく可愛い、これにしようかな。
そう思って手を伸ばした時、目の端に変わった色のケーキが過った。
まん丸い青い果実が大量にトッピングされている……こんな果実、初めて見たかもしれない。
おかげさまで、この作品が第五回ネット小説大賞を受賞し、書籍化が決定しました。
詳細は活動報告に記載しています。
まさか受賞するとは思っていなかったのでとても驚きましたが、これまで読んでくださった方のおかげだな、と本当に感謝しています。
頑張って更新しますので、これからもよろしくお願いします。