了承を得ました
ちょっと考えこんでいたら、なんだか視線を感じて顔をあげる。
視線の主は女将さんで、目があった途端に小さく口元が綻んだ。目尻が下がって小さな子供でも見るみたいに優しい表情になっている女将さんに若干戸惑いを覚えて小首を傾げたら、グリグリッと頭を撫でられる。
「もう、ちゃあんと夢を持てるようになったんだねえ」
目を細めて笑ってくれる顔に、ずっと心配をかけていたんだと実感した。私がお邸に帰ってから全く会っていないのだから当然かも知れない。
ありがたくてジーンとしていたら、いきなり背中をバーン!と景気良く叩かれた。
「なんか難しい事は分からないけどさ、クリスがやりたい事なら大歓迎さ!店にも立たせるし夢があるなら協力するよ。それでいいだろう?」
豪快に笑う女将さんにはもう、感謝しかない。
こうして私は週に一度、この居酒屋兼宿屋『テールズ』で働ける事になった。
「そうか、良かったじゃないか」
「はい!」
女将さんやお母様とのお話が終わって席に戻ると、マークさんがニヒルに微笑んでくれた。
「それで? 僕らの護衛の話は?」
セルバさんが珍しく勢いこんで聞いてくる。その様子に、本当に護衛任務が嫌ではないのだと分かって嬉しくなってしまった。
「はい!それもお母様にOKいただいてきました!」
「さすがクリスちゃん!」
笑顔が輝いてる! セルバさんのこんな晴れやかな顔見た事ないかもしれないけれど。
「それがお母様にお願いしたら、元々次回からは皆さんに依頼するつもりだったんですって」
「あ、そうなの?」
そうなのだ。送り迎えや友人との散策には屈強な御者兼護衛の方がつくらしいのだけれども、テールズにいる間は慣れているマークさん達の方が店への馴染みも含めて良いだろうという判断があったらしい。
「ふーん、じゃあ僕とマークで交代で護衛する感じでいいのかな」
「ああ、問題ない」
「ええっ、俺は?」
「レオは今重要な時期だとさっき自分で言ったばかりだろう」
「そうそう、頑張って出世して僕らの事私兵で雇ってもいいんだよ?」
慌てたように話に割り込んでくるレオさんを、二人はすげなくいなしている。前から仲が良かったのかこの頃仲良くなったのかは不明だけれど、歯に衣着せず話せる関係性があるみたいで少し羨ましい。
二人に言い返せる言葉がなかったのか、つまらなそうに「ちえー」と机に伏してしまったレオ様は、学園で時々お見かけする時よりも随分とくだけて子供っぽく見えた。
「あの、それで……護衛してくださるお二人に、折り入ってお願いがあるんですが」