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私の希望は

ちょうどお話の切れ目だったのか、お母様と女将さんが駆けよる私を見て優しげな笑みを浮かべてくれた。


女将さんは快活な笑顔で、お母様はふんわりと口角をあげて。


それぞれの笑みがとても嬉しい。



「クリスちゃん、もう積もる話は終わったのかしら?」


「男共が名残惜しそうに見てるじゃないか、もうちょっと話しておいで」



お母様も女将さんもそう言ってくれるけれど、せっかくお話に割り込んだんだもの、用件だけは口にしたい。



「あの、ひとつだけ……。女将さんがご迷惑じゃなければ、これからもこうして定期的にこのお店で働きたいんです」


「ああ、そのことかい、今その話をしてたところさ」



女将さんがそう言えば、お母様も鷹揚に頷く。



「クリスはもともとウチの看板娘だったんだ、こっちとしちゃクリスが来てくれるならありがたいけどねえ」



そう言いながらも女将さんは少しだけ渋い顔をした。



「でもそのせいでせっかく一番になったっていう学問が疎かになったり、クリスが危険な目に遭うのは嫌なんだよ。手だってこんなにツヤツヤ綺麗になったってのに」



私の手を優しく撫でて、女将さんが心配げに見つめてくる。私は、その目をしっかりと正面から見つめ返した。



「ありがとう、女将さん! でも私それでもここに来たいの。お勉強はちゃんと頑張るってお母様達とも約束したし」



お母様もニコニコと頷いて私の言葉を肯定してくれる。それに勇気を貰って、私は女将さんに率直に自分の希望を話すことにした。



「女将さん、実は私、将来市井官になりたいと思っているの」


「しせいかん?」


「ええ、ここでたくさんお世話になって色々な人と出会えて……私、少しでも恩返しがしたくて。市井官なら皆の生活を良くするための取り組みとかが出来るんですって」


「バカな子だねえ、大した事しちゃいないよ。それより『しせいかん』なんてあんまり聞いた事がないけど、皆の生活を良くするとか……なんだか大層なお役目なんだねえ」



女将さんの反応に、私は驚いてしまった。どうやら市井官という仕事がある事どころか、月に一度嘆願できる制度がある事なんかも街の人たちにはあまり知られていないらしい。


女将さんだけでなく、お客さん達も「何それ?」っていう顔だったのが切ない。思ったよりも全く浸透していない仕組みだった事に一瞬落胆の気持ちが浮かんでしまった。


でも。


よく考えれば、今それが分かって良かったのかも知れない、市井官になってからこの事実を知ったらもっとショックだったかも知れないもの。


うっかり落ち込みかけたけど、自分だって調べるまではそんな仕事や制度があることも知らなかったし、もっと言うなら今の治世がどのように運営されていてどのような問題点があるかなんて事、詳細に知る人の方が少ないだろう。


貴族なら一定の知識はあっても、市井の人達が知るのはもっともっと難しい事に違いない。

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