希望としては
「へえ、それじゃクリスちゃんはこれからはちょくちょく下町に来れるわけか」
「はい、その約束は取り付けました!」
そう言って胸を張れば、レオさんが「良かったな」と笑ってくれて、嬉しい気持ちがまたじんわりと体を包む。うん、本当に頑張って良かった。
こうしてお店の端の席から見ていても、見慣れた顔ぶれが陽気にグラスを空けていて、ここは昼間っからとても賑やか。大きな笑い声や注文の声、誰かが言った冗談に近くの席の人までが笑い合う、そんなわいわいザワザワとした空間は、本当に久しぶり。
貴族が多いからなのか、学園だってここまでオープンじゃないもの。特に女の子はお淑やかな子が多くて、大声をあげるなんて滅多にない。
私は、この雑多であけすけな雰囲気を懐かしく嬉しく思っていた。
「できれば、こんな風にお店にも顔を出したいと思って」
「へえ、そりゃあ常連のおっさん達が喜ぶな」
マークさんが相変わらずバーグ酒をあおり飲みながら、そう請け合ってくれる。うん、そうなら嬉しいな。荒々しくジョッキを打ち鳴らしているおじさま達が「クリスちゃんに乾杯!」とか叫んでくれてるのを見る限りでは、喜んでもらえそう。
ただ。
「もちろん、女将さんが許してくれればですけど」
「なんだ、まだ話してないのか?」
「ええ、女将さんはまだお母様とお話し中ですので」
「……ああ、なるほど」
女将さんとお母様の話し込む様子にチラリと目をやり、少しだけ考える仕草をしたマークさん。
「親御さんには、その希望は話してあるのか?」
と、急に真面目な顔で私を見る。
「ええ、もちろん。女将さんの了承があれば、という条件付きで許してくださいました」
「ふん、なら問題ないな。案外女将さん達もその事で話し合ってるのかも知れねえ」
「あ、確かにそうかも……」
「まずは女将さんの了承がないと話が進まん、行ってこい」
「ん。事の次第によっては、また僕ら護衛任務できるかも」
それまで無言でコーヒーの香りを楽しんでいたセルバさんが、ぽそりと呟いた。
「え……でも、ご迷惑じゃないですか?」
「全然。研究棟に籠ってるだけより息抜きになるし、護衛費貰えた上に君を見ながら読書や自分の研究にも時間を使えるし」
「俺も問題ない。実入りと金払いのいい依頼は大歓迎だ」
セルバさんとマークさんの率直な言い分に思わず笑ってしまった。
なるほど、迷惑をかけると心配していたけれど、彼らや護衛の任につく他の人にとっていいお仕事になるなら少しは気持ちが楽になる。
家族には心配かけるし、お金もかかってしまうから申し訳ないけれど、その分ドレスとかにかけるお金を節約するから許してほしい。
「分かったなら、女将さんのとこに行ってこい」
「うまくやってね」
マークさんとセルバさんに送り出され、私は女将さんとお母様の元へ駆け寄った。