半年ぶりの再会
ぶっちゃけ家出だ。
勘当されなかった以上、もちろん邸を出る必要はなかったし、お父様の言う事はいちいち尤もで、どこからどう見ても正しい。
ぐうの音も出ないって、こう言う状態を言うんだろう、多分。
あの日邸を出た時の心境は今になってもうまく言い表せない。
恥ずかしさやら申し訳なさやら後悔やら自己嫌悪やら恐怖やら…色々な感情がないまぜになって、結果私は何もかもを放り出して逃げ出したのだ。
「痛ててててっ!ちょっとは手加減してよクリスちゃん」
…危なかった。
やっと客足が落ち着いてきたもんだから、油断してしまった。この人の前では考え事厳禁だったよ全く。
「ギブギブギブ!割と痛いからホント!」
「隙あらば触ろうとするからですよ。レオさんも懲りませんねぇ」
伸ばされた手を捻り上げたまま溜息をつく。次いで、奥の席に陣取った怪しいフードの男にもやんわりと声をかけた。
「そちらのお客様も。お食事処で抜剣はご法度ですよ?」
レオさんの手が私のお尻に伸びたと同時に凄い殺気で抜剣したけど…私を助けようとしてくれたんだろうか。だとしても抜剣は物騒過ぎる。
連れの人だって顔がひきつって………あれ…?
なんか、見覚えが…。
「…グレシオン様…なぜ、ここに…?」
何故に、皇太子殿下がこんな下町でご飯なんか食べてるんだ。まさかこの終始俯いてる怪しいフード4人組…。
「クリスティアーヌ…まさか、本当に…君が、こんな所で働いているだなんて…」
グレシオン様が呆然と呟いたのを合図に、他の三人が一斉にフードを脱いだ。うち一人は、尋常じゃなく見覚えがある。なんたる事…我が弟ではないですか!
「ルーフェス…」
「姉さん、隙があり過ぎだよ」
これ以上なく不機嫌な顔で叱られてしまった…まさか抜剣男が我が弟だとは。そんな簡単に剣を抜くようなタイプじゃなかったと思うけど。
「クリスティアーヌ…君、自慢の髪が…」
未だ呆然としたままグレシオン様が呟く。あんな目立つ縦ロール邸を出る時に切って置いて来ましたが。…ていうか今気にするの、そこ?
「さ、グレシオン様、これで分かったでしょう。姉はこの通り下町で働いています。…殿下の仰る『庶民の気持ち』を学ぶために」
……へ!?
な、何それ!
思わず口を開こうとしたら、ルーフェスから凄い勢いで睨まれた。どうやら弟は、立派にお父様の資質を受け継いでいるらしい。