街に出るなら
たくさんの人から賞賛され祝福されて、スキップしたいくらいの嬉しさで舞い上がっていた私だけれど、もちろん令嬢としてスキップするわけにもいかない。
浮きたつ気持ちをぐっと抑えて帰路につく。
「クリスティアーヌ、おめでとう。本当によく頑張りましたね……!」
邸についたら、いきなりお母様がきつく抱きしめてくださった。目にはうっすらと涙が見えて、本当に喜んでくださっているのが実感できる。
私の口からはまだ報告してもいないのに、こうして私の帰りを待っていてくださったところを見るに、学園での出来事は筒抜けという事なんだろう。
「母上、嬉しいのは分かりますがその辺にしてあげて下さい。まだ大事な話があるのでしょう?」
やんわりと弟のルーフェスがお母様を押し留める。この一年でルーフェスはすっかり頼もしくなった。
お父様のお仕事を手伝っているせいか年齢よりも大人びて見えるし、なにより穏やかなのにいつの間にかルーフェスの思い通りに事が動いていくというお父様直伝の技を身につけてしまったあたり、全くもって侮れない。
ルーフェスの言葉を受けて目尻の涙を拭ったお母様は、「そうね」とにっこりと微笑んだ。
私と同じくらいウキウキしているお母様に促されてお父様の書斎に向かったら、なんとお父様がこんなに早い時間に邸に戻っていらした。このところは毎日日付が変わる時間まで帰ってこない事が多かったと思うけれど……。
まさかとは思うけれど、私が試験で一位をとったからなのだろうか。
「クリスティアーヌ、ついに目標を達したようだな」
「はい、時間がかかってしまいました」
「半年のブランクがあった上、お前の学年にはグレースリア様がいらっしゃるからな、致し方あるまい」
お父様にそう言わせる実力があるグレースリア様がちょっと羨ましい。
「さて、これからだが」
「はい」
「約束通り街へ行く事は許可しよう。だが、護衛はつけさせて貰う」
「……はい」
仕方ない……のかも知れないけど、自分が何かをするともれなく他の誰かに迷惑がかかってしまうのって、やっぱり心苦しい。
第一、市井官になったら街へ行く度に護衛つけるってどうかと思うし。
「御者に腕の立つものを配しておく。学友と街へ行く場合も必ず当家の馬車を使いなさい」
「はい、ありがとうございます」
「僕が一緒に行ってもいいけど」
ルーフェスがそう言ってくれたけれど、お父様から「お前は他に仕事があるだろう」と一笑に付されてしまっていた。若干ふてくされた顔が可愛い。
この一年で、ルーフェスは時々こんな可愛い顔も見せてくれるようになったのが、とても嬉しい。
弟の仕草を微笑ましく思いながら、私は考えた事を少しお父様にお話ししてみた。
「……あの、お父様」
「なんだね?」
「私、武術かなにか習うわけにはいかないでしょうか」