家族との時間
「あの女には到底耐えられない状況だね。それはガルアを責めるんじゃない?口でどう言うかは別として、内心不満しかないよ、きっと」
ルーフェスは確信を持っているみたいだ。彼女とかなりの時間行動を共にしたルーフェスだからこそ、確信を持てる事もあるのかも知れない。
て言うか、最上級生だったガルア様を既に呼び捨てているあたり、さすがに徹底してるなぁ。
「しかも、ガルアにしてみれば危ないところを身を捨ててまで救った気持ちでいるわけだろ?報われないよね、全く」
「ガルアはともかくあの娘としてはすぐに手に手を取り合って……という気にはなれぬだろうな」
ちょっと想像してみて、体をぶるっと震わせてしまった。そうだ、ガルア様はともかく。リナリア嬢にとっては、親しい男性にいきなり気絶させられたのだってショックだろうし、目が覚めたら食べる物にも事欠く辺境の農村にいるわけだよね。
知った顔は自分を無理矢理攫ってきたガルア様だけ。逃げ出す手段もないだろうし、多分手段があってもガルア様が止めるだろう。
「なんだ、想像でもしてみたのか?なかなか嫌だろう?」
お父様の問いかけに、思わずこくこくと頷く。
「二人とも随分ナメた真似をしてくれたのでな、今回に関しては表だった処分で何か利があるわけでもないし、一般的な罰よりも本人にとってダメージがデカい手法を取ったまでだ」
「はあ……」
なんと言えばいいのやら。
「まあそのうち諦めて下手な野心を抱かずに日々を暮らしてくれればいいのだが。国に仇なさなければ、これ以上関わるつもりもないのでな」
そう言った後、お父様は急に真面目な顔で私を見つめる。
「さあ、これで気になっていた事は解消できただろう?お前もこれ以上あの娘やガルアの事を気にする必要はない。そんな事に脳みその容量を使っている場合ではないぞ?自らの夢に向かって、邁進しなさい」
お父様の言葉にハッとする。二人が行方不明のままだと、私がいつまでもどこか気にしてしまうだろう事を見越して、お父様は詳細を話して下さったのだろう。
「そうですわねぇ。早く試験で一番をとって下町にいけるようにならないと、女将さんが寂しがりますもの」
お父様の傍らで、お母様が柔らかく微笑む。優しげに下がった目尻からは、慈愛のようなものが感じられた。
「クリスティアーヌ、下町に行けるようになったら、 一緒にお忍びで出かけましょうね。クリスティアーヌと行きたいお店が沢山あるの」
「母上、あんまり姉さんに無理させないようにね。姉さん、覚悟した方がいいよ。母上はこう見えて意外とタフなんだ。多分くたくたになるまで付き合わされる」
からかうように口を出してくるルーフェス。ちょっと突き放すような口調も照れ隠しなんだと、このところ漸く分かるようになってきた。
こうして家族揃って歓談し、家族の私への気遣いをありのままに感じられる瞬間が、とても嬉しい。
素直に「頑張ろう」と思えて、私はテーブルの下でそっと拳を握りしめた。