二人の行き先
「そうか?私はそれなりに満足しているがな」
目を閉じて紅茶の香りを楽しむ姿は優雅で、お父様の言葉に本当に嘘がないのだと分かった。
「二人を乗せた馬車はデイル村へ向かっている。まだ数日はかかるだろうがな」
「デイル村?」
不勉強のせいか聞いた事がない。それに、なぜに逃げた筈の二人の行き先をお父様が知っているのか……?
「まさか」
呟いて、ルーフェスが呆れたような顔をした。
「この国の人間でも知っている者など殆どいないような山奥の寒村でな。ガルアの『出来るだけ遠く』との望み通り、今運んでやっているところだ」
「なんでそんな回りくどい……」
ルーフェスは察するところがあるみたいだけど、私には何が何やらちっとも分からない。
「男を簡単に誑かす女狐と、仮にも騎士団長の息子だからな、下手な近場に逃げられて妙な動きをされても困る。隣国からも遠い上に周囲の村に行くには馬で数日かかる僻地、しかも貧しくて農耕馬もいない村なら、その心配もあるまい」
「うわぁ、厄介な奴ら押し付けられて、その村が可哀想なんだけど」
「あの村は飢饉でな、管轄の領主から減税の嘆願が出ていたのだ。減税の上馬車には種芋と食料を積んである。若い働き手が二人増えるわけだし、村にとっても悪い取引ではなかろう」
「なるほど」
まずい。ルーフェスは既に納得し始めているというのに、私、今ひとつ理解出来ていないんだけど。
「あ、あの……申し訳ありません、私、よく分からなくて。ガルア様は御自身の意思で馬車を駆って逃げていらっしゃるんですよね?」
「ああ、そうだ。ただあの娘には監視をつけてあったのでな、ガルアが行動に出たのを知ってこちらも手を打たせて貰っただけだ」
「本人は逃げたと思ってるけど、その実行き先は指定されちゃってる訳だね」
なるほど、逃げたつもりでその実しっかり居場所は把握され、護衛までされていた事に半年気付かなかった私には若干胸が痛いシチュエーションだ。
「しかし今回概要を聞くに、ありていに言えば流罪でしょう。はっきり罪に問えばいいでしょうに」
「私はな、何でも見せしめに罰する事が威信に繋がるとは思っておらんのだよ。むしろ今回の一連の流れはどれをとっても醜聞にしかなるまい」
ルーフェスの不満げな顔に、お父様は苦笑を漏らしている。
「それにな、今回は若干意趣返しも含まれておるのでな」
「意趣返し……ですか?」
お父様が言わんとする事は、私にはなんだか婉曲的で正直よくわからない。
「あの娘は野心家だ。見目のいい男、質のいい貢物、褒め称える言葉を常に求めている。学園で誑かした男達も、商家の息子から始まって次々に位の高い男達にターゲットを変えていった。そんな女がいきなりド田舎に押し込められたらどうなる?」
「あ……」