ガルア様とリナリアさん
「姉さん帰るの早過ぎだよ……。なんか二人程脱落したんだろ?逆恨みしたヤツとかに害されないとも限らないから、僕、姉さんの教室まで迎えに行ったのにもう居ないし」
脱落……?
ああ、クレマン様に家に帰れって言われてた二人の事かしら。
「大丈夫よ。もしかして心配してくれたの?」
「当たり前だろ」
憮然とされてしまった。
「大体その『大丈夫』って根拠ないだろ。明日から勝手に一人で帰ったりしないでよね」
馬車なのに……とは言わないでおこう。
「ほらほら二人とも、いつまでも立ってないでお座りなさいな。クリスティアーヌ、久しぶりに学園に行った感想はどう?」
幸せそうな笑顔でお母様が促す。極上の紅茶を飲みながら、家族4人で談笑する時間はとてもとても大切なものに思えた。
学園であった事……心配して声をかけてくれた人がいた事、授業はやっぱりかなり進んでいて難しかった事、グレースリア様やレオさん、クレマン様達と話した事などを訥々と話していたらあっという間に時間が過ぎた。
お父様にとっては概ね予想通りの反応だったらしく、時折頷くだけで大きな反応はない。穏やかな目の中に、時折面白そうな光が宿るくらいだ。
逆にお母様はいちいち反応して下さる上に、各々の親御さんの心情に寄り添ってみたりと忙しい。終始不貞腐れた様子のルーフェスとは全くもって正反対の反応なのがちょっと面白い。
家族との会話を楽しみ一通りの話を終えた私は、気になっていたリナリア嬢の事を訊こうかどうかを迷っていた。
「どうした、クリスティアーヌ。何か気になっている事でもあるのか?」
さすがにお父様にはお見通しらしい。
「学園でガルア様とリナリアさんが逃げた、なんて不穏な事を聞いたものですから、気になってしまって」
「もう聞いたか、意外と早かったと言うべきか」
ニヤリと笑ったお父様は顎をさすりながら意味ありげに私を見た。
「有り体に言うと、まあ事実だ」
「本当ムカつく事にね」
お父様が笑っている横で、ルーフェスの機嫌は益々悪くなっている。
「事実なんですか?」
「ああ、ガルアがあの娘をさらって逃げた、とも言うな」
意味が分からない。
「お前の冤罪が分かった途端、嫌がる娘に当て身一発で気絶させて手際良く連れ去ったらしい。あの娘が罰せられるとでも思ったのであろう」
「まあ……」
「騎士団長子息が殿下放ったらかして女攫って逃げたとか、開いた口が塞がらないよ。あの女もガルア様も、僕は正式に罰するべきだと思う」
「さすがにガルアは廃嫡にしたそうだがな」
「生ぬるいよ」