レオさんが目指す未来
「そういえばレオさんは慌てませんでしたね。あのお話、知ってたんですか?」
ふと言ってみれば、とっても心外そうな顔をされてしまった。
「知ってるわけないでしょ。ていうかクリスちゃん、なんか色々誤解してない?俺、割と頭いいよ?学年でトップ10から落ちた事ねえし、あれくらい慌てる必要ないからな?」
「腐ってもハフスフルールの名に連なる者ですものねえ」
「末端だけどな」
「そうそう、私が殿下と婚約したから本家は後継の座が空席になったでしょう?お父様はきっと一族の中から有能な者を後継に選ぶでしょうね」
「だな、親父さん既に査定モードに入ってるもんな」
「レオ、物凄~く頑張れば、貴方にも可能性が無くはなくてよ。……侯爵位なら、何とかなるかも知れないですわねぇ?」
「分かってるさ、交渉中だ。でも親父さんの口癖知ってるだろう?」
「実力で勝ち取れ、ね。まあ侯爵位がそう簡単に手に入る筈もないでしょう。頑張りなさいな」
「既に功績上げてるヤツらも多いからな。さっきのボンボン達より絶対難易度高いぜ。まあ、負けねぇけどな」
くだけた感じでポンポンと交わされる会話は、正直私にはよく分からない。レオさんが空席になったハフスフルール侯爵家の後継を狙ってるんだって事が分かるくらい。
レオさんが侯爵かあ……想像つかないな。
「とにかく!俺も頑張るから、クリスちゃんも頑張ってな。あのぼんくらボンボン達はそうでもねぇけど、グレースは強敵だからよそ見しねぇで勉強しろよ!」
言いたい事だけ告げて、レオさんは踵を返す。少し急いだ表情になっているのは、昼休みも終わりそうな時間になってきたからかも知れない。
「あ、レオさん!ありがとうございました!」
「どう致しまして!じゃ、頑張れよ!」
照れ臭そうに笑ってから、レオさんはダッシュで戻って行った。
「私達もそろそろ教室に戻りませんと。クレマン様達のせいで、食事を完全に取りそこねましたわね」
先を歩くグレースリア様に小走りで追いつきながら、どうしても気になる事だけ小声で尋ねる。
「あのっ……リナリアさんは一体……?」
「私も知らされておりませんわ、興味もありませんし。気になるならば、貴女のお父様にお聞きになったら?一番知っていそうな方ですもの」
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グレースリア様の言葉にそれもそうだと納得し邸に帰ってみれば、珍しい事にお父様が既に邸に戻っていた。どうやら約半年ぶりに学園に行った私を、心配してくれていたみたいだ。
駆け寄ってきてくれたお母様と、若干安心した様子のお父様に帰宅の挨拶をしていたら、邸内がまた慌ただしくなる。
邸では滅多にない、走るような音が近づいて来たかと思うと、乱暴に扉が開かれた。
「姉さん!……ああ良かった、ちゃんと帰って来てたんだ」
「まあ、ルーフェスったらそんなに慌ててどうしたの?」
「どうしたの?じゃないよ……」
ぐったりした様子で頭を抱えたルーフェスは、私を恨めしげな目で見つめてきた。