身分剥奪の上放逐…?
「王族の望を汲み取り実となすのも役目、だがその言に過ちあれば命を賭して正す事も我ら臣下の役目であろう!お前は一体、これまで何を学んできたのだ!」
お父様の怒声の度に、空気も窓もビリビリ震える。王宮で恐れられているという噂が真実だったと、たった今確信した。お父様、怖過ぎる…!
「…此度の事は、事の真偽も確かめず断罪したグレシオン様は元より、それを諌めなかったお前にも咎がある」
あまりの怖さに固まっていたら、お父様の声が徐々に落ち着きを取り戻してきた。声量と共に、表情も沈痛なものに変わっていく。
「クリスティアーヌ、わかるか?お前は…公爵家の矜恃に傷をつけたのだ」
あ…この、セリフ…。
覚えのあるセリフに、戦慄する。
ついに来た。
勘当を言い渡す時の、お父様のセリフ。
身構える私に、お父様は眉を寄せ、悲しげな顔でこう言った。
「…クリスティアーヌ。此度の件、自分一人の咎にして欲しいと、そう言ったそうだな。…それを、私達が望むとでも?」
え…っ?
「…下がりなさい。後は私が始末をつける」
勘当…されなかったの…?
自室に戻った私は、天蓋付きのベッドの上でしばらく放心していた。
あんなセリフじゃなかった。
あの時見た光景では「公爵家の矜恃を傷つけた」と怒り狂っていたけれど、お父様はあんなに悲しそうな顔じゃなかった。
お父様達の事を思って皇太子殿下に願った事は、反対に、お父様を深く傷つけたように思える。
「はは……ホント、うまくいかない…」
せっかく婚約破棄の場面は、綺麗に退場したのにな。
お父様から下される筈だった、身分剥奪の上放逐の処分も、クールに受け止めて、後腐れなく邸を後にする筈だったのにな。
こんなにも後味が悪い思いをするなんて…一体、どうすれば良かったというんだろう。
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「クリス!フォールバウアとナシスがあがったよ!運んどくれ!」
「はーい!」
毎日の事ながら、さすがに食事時は戦場のような忙しさだ。くるくると走り回って、オーダーをとったり出来た料理を運んだりと、本当に息つく暇さえ見当たらない。
あの運命の日から、もう半年はたっただろうか。私は今、城下町の『テールズ』という宿屋兼食堂でただの町娘、クリスとして働いている。
あの夜散々迷った末、結局私は自ら邸を後にした。