招かれざる客
「さすがにあの状況下で何も聞かずに殿下との婚約を受け入れられる程図太くはありませんもの。当然根掘り葉掘り聞きますわよ」
それもそうか。グレースリア様は殿下と取り巻き達には相当幻滅されているようだし、その上いきなり私は学園に来なくなり、今やリナリアさんも学園から姿を消したともなると……聞かない方がおかしいものね。
詳細まで陛下やお父様がお答えになったのは、それだけグレースリア様が信用を得たということだろう。
「市井官になりたいのなら、町の様子も定期的にご覧になりたいのではなくて?親しい方もいらっしゃるのでしょう……差しでがましいようですが、今の立場なら私、お口添え出来るやも知れませんが」
「いいえ。お気持ちだけ有難くいただきますわ」
私は笑ってかぶりを振る。
「その権利は自分で勝ち取らないと意味がないので……お父様に交渉して、学園の試験で1位をとれば、定期的に市井を探索する許可をいただける事になっておりますの」
「そう。ですが半年ブランクがあるでしょう。生半可な事では1位などとれなくてよ」
「ええ、ですから今猛勉強中です。前回の1位はグレースリア様だと……必ず、追い抜きますわ」
「ふふ、では正々堂々、手加減なしで」
目を細め楽しげに笑ったグレースリア様は、扇を閉じて立ち上がった。涼やかな黒髪とスレンダーな長身、スッと伸びた背筋は、いつ見ても凛としてとても綺麗だ。
「さあ、もういいでしょう。いつまでそんな所でお聞きになるつもり?クリスティアーヌ様にお話があるのでしょう、男らしく出ておいでになったら?」
突如グレースリア様が部屋中に響く程の声でそう言った。途端に2箇所で扉が開く。
「えっ!?あ、あの…?」
史実科の教室からは見知った顔が数名。宰相の御子息クレマン様、宮廷魔道士でもあるフェインさん他、リナリア様に心酔していた皆様だ。
殿下と騎士団長の御子息ガルア様はいないみたいだけど……半年前に私を囲み、糾弾した方達ばかりだからか、勝手に体が萎縮してしまう。
反射的に目を逸らした先には廊下へ続く扉。そこには見知らぬ男子生徒が……
ん?
どことなく見覚えがある気もする……?
あ……まさか。
「レ、レオさん……?どうしてここに?」
驚く私に、レオさんはとても気まずそうな視線を送る。次いでグレースリア様を見て、慌てて顔を背けた。
つられて見たグレースリア様は、何故か扇を手が白くなって震えるくらい握り締めている。
「……本当。どうしてこんなにわらわらと男共が出てくるのかしら。私がご招待したのは、クレマン様ただ一人の筈ですが」
……クールな中にもただならぬ怒りを感じる。先ほどまでの若干砕けた印象は最早見る影もない。グレースリア様からは地を這うような低い声が出ていた。