未来の王妃グレースリア様②
思わず目を見開けば、グレースリア様はまたも屈託無く笑い始める。
「そんなに驚く事ではないでしょう?あの庶民のお嬢さんにバカみたいに群がって、いいように転がされている殿下と側近達を見れば、誰とて将来不安になりますわ」
「随分とハッキリ仰いますね」
あまりに歯に衣着せぬ言いようについ笑ってしまったら「笑い事じゃありませんわ」と僅かに唇を尖らせる。いつも凛とした印象のグレースリア様のこんな愛らしい表情は初めて見たかも知れない。
「クリスティアーヌ様がさぞや苦労されるだろうと、私、外交を担当する文官を目指しておりましたのよ?男はアテにならないと思い知りましたもの。……それなのに」
「まあ、文官を?グレースリア様が?」
さすがハフスフルール侯爵家のご令嬢というか、何というか……。
天才肌で独立心が強いこの一族は宮廷でも変わり種で、数多の才女を文官として輩出しているという。お父様によると、女性が仕官出来るようになったのは、そもそもハフスフルール侯爵家の尽力によるところが大きいのだとか。
グレースリア様を見ると、なるほど凄く納得出来る。
「ええ、そのつもりで婚約者を置かなかったのが、まさかこんなところで仇になるとは思いませんでしたけれど」
グレースリア様は苦笑しているけれど、なんだかとても申し訳ない。
「あの……」
「良いのです」
謝ろうとした途端、グレースリア様に遮られる。唇に人差し指をあてて微笑んだ彼女は、とてもすっきりとした顔をしていた。
「王妃になれば、より高次の外交も可能ですもの。こうなったら折角の立場を存分に活かすだけですわ。ただ、クリスティアーヌ様にも当然手伝っていただきますから」
望んだ立場ではないというのに、笑顔でそう言い切ったグレースリア様に、私も最大限の覚悟で応えたい。
「はい。グレースリア様が王妃になられた暁には、精一杯お役に立ってみせますわ。私、市井を担当する文官を目指していますの」
「……ふふっ、安心しました。それにしてもクリスティアーヌ様、噂通り本当に印象が随分変わられたのですね」
「噂?」
「ええ、学園も朝からその話で持ち切りでしてよ。やれ笑っただの、雰囲気が柔らかくなっただの……従兄弟からも散々聞かされましたし」
それほど今までが無表情だったという事か。
「私、今の貴女の方が好きですわ。……町での暮らしは随分と貴女を変えたのですね」
「そ、そんな事までご存知で」