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未来の王妃グレースリア様

グレースリア様の言葉がよほどカンに触ったのか、フロリアーヌ様は屈辱で顔を真っ赤にしている。見た目はふわふわ金髪碧眼のお人形のような方なのに、気性はなかなかに激しい方なのだ。


「……貴女こそ、王妃の座が偶々転がりこんで来たくらいでいい気にならないで頂きたいわ。どうせ権力に物を言わせてその座を手に入れたのでしょう?さもしいこと」


バカにした感を最大限に出してそう言い放ったフロリアーヌ様を、冷たい眼差しで一瞥したグレースリア様は、盛大な溜息をついてから扇を顔にあてた。


「……嘆かわしい。よほど王家のお決めになった事がお気に召さないようですね。それは、お父上も同じお考えですの?状況によってはご報告が必要ですわね」


「……っ」


初めて、フロリアーヌ様の顔がさっと青ざめた。


「少しはお考えになってから発言されてはいかが? そも、此度のクリスティアーヌ様との婚約解消も、私との婚約も、然るべき故あっての事。その故さえ知らされる立場にない貴女が、賢しらに言い立てて良い事ではないでしょう」


悔しげに顔を歪めるフロリアーヌ様とは対照的に、グレースリア様は最早興味を失った様子で扇子を閉じた。



「……あら、私とした事が」


ふ、と思い出したように顔を上げたグレースリア様が、私を見てにっこりと微笑む。


「私、クリスティアーヌ様がおいでになったと聞いて、お食事のお誘いに来たんでしたわ。私、クリスティアーヌ様に教えていただきたい事が沢山あるんですの」


この流れで断れる筈もなく、導かれるままについていく。グレースリア様はあらかじめ史実科の準備室を借りる手配をされていたようで、難なく人目のない場所へ落ち着く事が出来た。


「初めてフロリアーヌ様に反論されましたわね!」


椅子へ腰を降ろすなり、グレースリア様は楽しそうに笑い出した。


「言い合うのは不慣れなご様子でしたから、思わずしゃしゃり出てしまいましたが、差し出がましかったでしょうか」


突然砕けた雰囲気に、若干驚いてしまったけれど、グレースリア様は元々が割とサバサバしたタイプの方だ。あまり話した事がない私でも分かるくらいには、武勇伝もお持ちだったりする。


「まさか!助かりましたわ!……本当に、ありがとうございました」


助かったのは本当なので、素直に感謝の意を口にしたら、グレースリア様はちょっと困ったように微笑んだ。


「そんなに素直に感謝されると困ってしまいますわね。本当は、厄介なのを押し付けて、って恨み言のひとつも言おうと思ってましたのに」

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