学園にて
そう決心してから10日弱。
私はついに学園に戻って来た。
切って邸に置いていった髪で鬘が作られてたものだから、見た目はあまり変わらない感じで登校出来たと思う。若干肌が黒いけど。
覚悟はしてたけど、朝から視線が痛い。こちらを見てヒソヒソと話す表情は様々だ。単にびっくりしている人もいれば、興味津々の顔、蔑むような目、心配そうな顔……。
ただ、ほとんどの人が遠巻きにして近寄っては来ない。これまでも学園の人達とはほとんど交流を持って来なかったし、仮にも公爵令嬢の私に、気軽に声をかけられる人はそうはいない。
それでも教室の席に落ち着いてしばらくすると、心配そうな視線を送ってくれていた数名の女生徒が、控えめに声をかけてくれた。
「あ……あの、もう体調は大丈夫なんですか?」
「…はい、もうすっかり。随分休んでしまったから、これから頑張らないと」
確か、お名前はカーラさんと言ったかしら。庶民の子が声をかけてくれるなんて、随分勇気が要っただろうに…心配そうに寄せられた眉に下町の優しい人達を思い出す。嬉しくなって、つい笑顔がこぼれた。
「声をかけてくれてありがとう」
びっくりしたような顔で固まった彼女達は、硬直が解けた後、当たり障りのない直近の授業の話などを簡単にしてくれた。
教室の窓の外から不躾に飛んでくる視線や言葉を、授業が始まるまで一人で我慢するつもりだったから、その心遣いが何より有難い。
休み時間の度に、窓の外には見物も増えてくる。そして、朝からカーラさん達が声をかけてくれたおかげか、貴族、庶民問わず少しずつ話しかけてくれる人も増えてきた矢先。
昼休みに入ってすぐだった。
「おお嫌だ。殿下から婚約が解消された途端、貴族の矜恃も忘れてしまわれたのかしら。誰彼となく媚びるような真似をなさるなんて……はしたないとは思わないのかしら」
来た、フロリアーヌ様だ。
沢山の取り巻きを引き連れて、この学園で最も令嬢らしい令嬢だ。以前からなんとなく風あたりが強いと思ってたけど、正妃の座を狙っての事だと思ってた。
「フロリアーヌ様……お久しゅうございます。お言葉ですが、心配してくださる方に丁寧に対応することが貴族の矜恃に反するとは思っておりませんの。ましてやここは学園ですもの」
「な……っ」
これまで全力スルーだった私が反論した事で、フロリアーヌ様の眉がググッと釣り上がる。
「な、なんですって!?殿下から袖にされた身で何様のおつもりかしら!?」
「何様は貴女です」
凛とした声が響いた。
「クリスティアーヌ様は公爵家のご令嬢。貴女が大好きな『貴族』の家柄としても、貴女より格上でしてよ。身の程を弁えてはいかが?」
「グレースリア様……!」
割って入って来たのは、殿下の新しい婚約者、ハフスフルール侯爵家のグレースリア様だった。