誰の役に立ちたいのか、なんて決まってる
考えは、なかなか纏まらなかった。
考えても考えても、私の中にあるのは『恩返しがしたい』たったそれだけだ。
この半年、見ず知らずだった私を暖かく支えてくれた女将さん達、そして心配をかけてしまった家族達。彼らが幸せになれる事をやっていきたい。
ただ、どこでどうすればそれが達成できるのか…悲しい事に、将来を決定するには知識が足りな過ぎる。
町娘になってここで働き続ければ、日々の中で女将さん達には直接恩返しできるチャンスがあるだろうけど、お父様達とは疎遠になってしまう。
お父様達の側にも居られて、女将さん達にも恩返しが出来るような…そんな事あるだろうか?誰かの妻になっても、影響を与えられるのは領地の経営だけだろうし、この城下町とはむしろ縁が遠くなるだろう。
貰った親切を別の誰かに…っていうのも素敵だとは思うけど、私、この町が好きだ。この店の人はもちろん、八百屋のおじさんもパン屋のマリー姉さんも、魚屋のジョルノさんも、ちょっと荒いけど皆優しかった。
この町の人たちの暮らしが、豊かでもっと楽しくなればいい。
元の世界だったら、公務員になって市役所にでも務めただろうか。
……マークさん、官吏って言ってたよね。官吏って公務員みたいなものだよね、確か。地域活性課的ポジションとかあるんだろうか。もしその役割に着けるなら、半年といえど実際に町で暮らした経験も少しは役に立てる事が出来るかも知れない。
文官なら頑張れば目指せるのかしら。いや、そもそも女の人も官吏って登用されるものなの…?
ああもう、元の世界だったらネットで少し調べればきっと分かるのに。
悶々と悩んだ結果、明け方になる頃には開き直っていた。今まで考えもしていなかった事を、急に考えて全て結論が出る筈もない。
やりたい事だけは決まったんだ。独りよがりにならないように、これから一つ一つ調べていけばいい。
女将さん達には生活の中でどんな所が困っているかさりげなく聞いておきたいし、ここは幸い沢山の人達が集まる所だから、お客様の雑談からだって改善すべきポイントが見つかるかも知れない。
今すぐ私にどうにか出来るわけじゃないけど、きっと色んな気付きがあるし、お父様に進言したっていい。勉強だって嫌というほど必要だろう。
やりたい事のために、今出来る事を沢山考えて、実行しよう。少しでも前に進むために。