マークさんの助言
「一緒にいいか?」
「はい、もちろん。今日は本当にありがとうございました」
「そりゃあ別にいいんだ。ただ、ちょっと気になってる事があってな」
いつもは飄々としているマークさんなのに、一体どうしたんだろう。不思議に思いつつも、彼が話し出すのを若干緊張しながら待った。
「……クリス、お前なんで令嬢に戻ろうと思ったんだ?」
「え?」
「レオの話から考えても、どう見ても庶民の暮らしの方が性に合ってんじゃねぇのか?」
レオさんに続きマークさんにまで意思確認されてしまった。私が邸に帰るという選択は、よっぽど違和感があるらしい。
レオさんに言った事を寸分違わず口にすれば、マークさんはちょっと唸って黙り込んでしまった。
「あの……マークさん?」
「それは、罪悪感を払拭したいだけじゃねぇのか」
話しかけようとした途端、マークさんの真剣な問いに、体が固まった。それは多分…図星だったからだと思う。
「いや、それが悪いってんじゃねえ。それも通らなきゃならない道だ……ただ、俺が問いたいのは、ちゃんとその後の…将来の展望っつうか目標があるかって事なんだ」
将来の展望と言われると、正直薄っぺらい。
まずは邸に戻って家族や身近な人達に、これまで不義理をした分を地道に返して行きたいというのが一番で、後は学園と邸で公爵家の人間として恥ずかしくないように学び直して、ゆくゆくは多分、お父様がお決めになったどなたかの元へ嫁ぐのだと漠然と思っていた。
「まあそれも一つの選択だがな、別にそれだけが人生じゃない。クリスには生き方を選択させるつもりだって、俺達護衛は聞いてるんだが…違ったか?」
「いえ…その通りです」
マークさん達までそれを知っているとは思わなかった。
「言っとくが、このまま学園に戻ってもクリスが言う通り、いいとこ普通に教養を身につけて、格下の貴族に嫁いで、優雅な奥様ライフを送るのが関の山だ。…だがそれに何のメリットがある?」
「……!」
「公爵家といえば押しも押されもしない名家だし、近隣国とも今は至って良好な関係だ。今更婚姻で得られる利なんか国にも家にも領民にもないだろう?」
その通りだけど…マークさんからそんな言葉が出るとは思わなかった。
「だからクリス、真剣に考えるんだ。道は一つじゃない。宮廷に士官してもいいし、町娘になっても…なんなら冒険者になったって親孝行は出来る。お前の親父さんが人生を選択させるってのは、お前がどんな道を選んでも受け入れる…それくらいの覚悟じゃないのか」
お父様の苦しげな表情が脳裏をよぎる。
「親父さんの覚悟を無駄にするなよ。嫁に行くなら行くでもいい、だがお飾りにだけはなるな。慈善活動をしっかりやるのか、社交で夫を助けるのか…どこで、何をして、誰の役に立ちたいのかを、真剣に考えるんだ」