表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/282

邸にて

「クリスティアーヌ!」


「ぐはっ!?」


思いがけないお母様のタックルに、思わず淑女らしからぬ呻き声が出てしまった。


一体何だって言うんだろう。


「クリスティアーヌ…クリスティアーヌ…!」


私をきつく抱きしめてうわ言のように私の名前を呼びながら、お母様はさめざめと泣いている。ただ、激情が腕力に変換されているのか、めちゃくちゃ痛い。


「お…お母様…?」


「おお、クリスティアーヌ…なんてこと!」


泣きじゃくるお母様は、やっぱり話が通じる状態じゃない。ただ、あの時思い出した光景よりは…私を抱きしめてくれている分、とても暖かく…暖かく感じられた。


「エリーゼ、離してやりなさい」


お父様の制止に、お母様が名残惜しそうに手を離すと、漸くその場に静寂が訪れる。長い沈黙の後、お父様が額に手を当てて天を仰いだ。


私がお父様を困らせた時、お説教の前に必ずこのポーズだったわね。こんな時だというのに、なんだか懐かしい。最後のお説教を受けるべく、私は両足をちょっと開き、力を入れて身構えた。


きっとこれまでにない叱責が待っているだろう。でも、覚悟は出来ている。どんとこいですわ、お父様!



そしてお父様がおもむろに口を開く。



「…クリスティアーヌ、学園で何があったのかは既に聞き及んでいる。…グレシオン様から、婚約破棄を言い渡されたそうだな」


「…はい」


「破棄の理由も聞いたが…」


一拍おいて、お父様は私の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「心当たりはあるのか」


「?…いいえ」


なんだろう。あの時見た光景では、こんな問答なかった。お父様はただただ怒鳴り、喚き、育て損になったと天を仰いでたと思うんだけど。


「冤罪だと言うのか」


「…はい」


その途端、お父様の怒りの気が一気に増した。背中から黒い何かがゆらゆらと揺らめいて見える。


ヤバい…怒りの本番は、これからかも。



「クリスティアーヌ…お前という婚約者がありながら、グレシオン様は随分とそのリナリア嬢と懇意にしていたそうだな。それでもお前は苦言すら呈さなかったと?」


え…?あれ…?


「そ…その…特に興味がなかったので…」


だってそうなるって知っていた。私にとってはグレシオン様とリナリア嬢が仲良くなっていくのなんて分かりきっていた事で、その事に興味なんて小指の爪の先ほども持てなかったから。


私の答えを聞いて、いよいよお父様の怒りの気は最高潮に達した。



ひいぃぃぃ…!

お、お父様、怖い…!


怒鳴り散らしてたあの光景より千倍怖い!


「すべき諫言も忠告もせず、その上冤罪を受けて諾々と従ったというのか!」


部屋中がビリビリと震えるような怒声だった。足を踏ん張っていなかったら、腰を抜かしてしまったかも知れないくらい怖い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【作者の先日完結作品】こっちもオススメ♪

ここをポチッと押してね(^-^)

『魔法学校の無敵の首席騎士様は、ちょっとコミュ障、大型わんこ系でした』

先日完結しました。首席騎士様が強いのにカワイイとの感想を多数いただいております(笑)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ