SS:【女将さん視点】③
わあ、と素直に喜んで嬉しそうに笑い合う二人を見ていると、こっちまで楽しくなってくる。この笑顔で仕事してくれるなら店も明るくなるからね、雇う価値があるってもんだ。クリスもいい子を連れてきてくれたじゃないか。
「さあ、着替えて店に立っとくれ! 最初はゆっくりでいいからね」
「はい!」
「私も今日は一緒に店に立ちますね」
「ああ、そうしてくれると助かるねぇ。お手本になってやっておくれ」
そう言うと、クリスは恥ずかしそうにちょっと笑って「頑張ります」と請け合った。その横でカーラは「え……お手本って……」と呟いたまま、なんでだか狐につままれたみたいな顔をしている。
「カーラさん、私、学園をお休みしていた間、実はこのテールズで住み込みで働いていたの」
「えっ!?」
カーラが勢いよくクリスとあたしの顔を見比べているのを見て、あたしも驚いた。ここまで連れてきておきながら、クリスときたらこの子にそのことを話してなかったんだねぇ。
「えっ、えっ、なんで? クリスティアーヌ様、だって……公爵家のご令嬢ですよね」
「ここではクリスって呼んでね。お客さんも皆そう呼んでくれるから」
「えええ~……?」
言い様、クリスはささっと手早く化粧を落として、髪の毛をくるくるっと巻き上げる。初めてここに来たときからもう三年は経つもんねぇ、ザンバラだった髪も綺麗に伸びたもんだ。
使い慣れたエプロンをささっと巻けば、いつものクリスのできあがりだ。あたしにしてみりゃ見慣れたクリスになって一安心だけど、どうやらカーラはそうじゃないらしい。
「嘘……」
そう呟いたまま、ぽかんとした表情でクリスを見ている。
「さ、カーラさんもこのエプロンを着てね。早速店にでてみましょ」
差し出されたエプロンを言われたまま受け取って呆然と手の中を見ていたカーラは、ひとつ頷くと勢いよくエプロンを身につける。
「なんか聞きたいことは山ほどあるけど、今はやるべき事をやるよ。せっかくクリス……さんが紹介してくれたんだもんね」
「ええ! 頑張りましょ」
嬉しそうにクリスが笑う。ああ、クリスはこの子をとても信頼してるんだねぇ。だからこそここを紹介しようと思えたんだろう。
あたしもこのカーラって子、気に入ったよ。
この子が言うとおり聞きたいことだらけだろうに、結局ひとつも聞かないままクリスに連れられて店の方に降りてっちまった。あの子もまた、クリスのことをきっと信頼してるんだろう。
嬉しいねぇ、クリスにはあんなにいい友達がいるんじゃないか。




