飛び入り
「今回の事はクリスが2年待ってみる、ってんならそれはそれでいいさ、あたしが文句言う筋合いじゃない。ただね、一度失った信頼なんて、そう簡単に戻るわけじゃっないって事だけは覚えておいた方がいい」
部屋の扉へ向かいながら、女将さんが1トーン落とした声でグレシオン様に語りかける。
「そうだね例えば…ウチで食中毒なんか出した日にゃ閑古鳥で潰れちまうよ。…もし立て直せたとしても、もう一度食中毒出したらこの街にはいられないだろうね」
考えたくもない事態だけど、それは確かにその通りだろう。
「ボウヤは今、そういう状態だって事忘れないどくれ。2度はないよ。絶対だ」
女将さんの言葉を噛み締めるように一つ頷いたグレシオン様は「肝に銘じよう」と一言告げて、開けられた扉から出ていった。
私達も、僅かに間を空け続いて階段を降りる。階下のおじさま達の喧騒が聞こえた時だ。
バァン!!!と派手な音を立てて、入り口のドアが開いた。
「クリスちゃん!無事か!?」
転がり込むように入って来たのは…
「あら、レオさん。どうしたんです?」
こんな時間に珍しい。いつもより早いかも。
「どうしたんです?じゃないだろ! セルバが、また怪しいフード達が来たっつーからダッシュで来たってのに!」
そうか、護衛として駆けつけてくれたんだ。
「まぁ、ありがとう。今ちょうど話し合いが終わったところよ」
「え、マジで!?」
ヘナヘナと糸が切れたように座り込んだレオさんは、肩で荒い息をしている。随分と急いで来てくれたんだろう。
「遅せぇんだよ」
マークさんが悪態をつけば、それに乗じてお昼時が近づいて増えてきたらしいおじさま達が、口々に囃し立てる。
「惜しかったな!」
「いいとこは全部、女将さんと冒険者の兄ちゃんに持ってかれたぞ」
「いるよな、こういう肝心な時に役に立たねーヤツ」
「不憫じゃのぅ」
「勝負あったな」
良くわからないけど、なんだか言いたい放題だ。しかも何故かレオさん、おじさま達から爆笑されてるし。さすがにいくらレオさんでも可哀相な気がするんですけど。
「うるせーよ!!!」
一声吠えて不貞腐れたレオさん。そして何故か、気がつけばグレシオン様がそんなレオさんをしげしげと見つめていた。
「……クリスティアーヌ、彼…知り合い?」
「はい、ここの常連さんなんですわ」
この場合、護衛だということも言った方がいいのかしら?