SS:【女将さん視点】②
翌日の午後のこと、扉のあく音に「いらっしゃい」と声をかけたら、うちでは珍しい女の子の二人連れの客が入ってきた。
「女将さん! こんにちは!」
「ああ、そこの厨房近くの席につきな。メニューは……」
言いかけて、さすがのあたしも面食らった。ニコニコと笑ってあたしを見ているこの上品なお嬢様……。
「あれ? あんた……」
言いかけて口をつぐめば、お嬢様はにっこりと微笑んだ。
間違いない、化粧もしてるし随分と雰囲気が違うけど、こりゃあクリスだよ! たまげた、と思いながらあたしは二階の空室へと言葉少なに誘導した。
さすがにこんなお嬢様然としたクリスを、このまま常連も多いこの場所にいさせるわけにもいかないしね。しかしまぁ、女は化けるというけども、本当だったんだねぇ。
「ごめんなさい女将さん、びっくりさせちゃって」
「驚いたよ、あんたいつもはそんな格好してるんだねぇ」
このまえ紅月祭とかいう学園祭で見たときとはまた違う、見た目は気の強そうなお嬢様だ。学園ってのは武装していかなきゃならないような場所なのかねぇ。
ああでも、この子が最初この店の前を歩いてた時は、血の気のない頬で、泣きはらした目で、自分で掻き切ったようなざんばらな髪で、この世の終わりみたいにうつろな顔をしてたっけ。
そりゃあ、武装したくもなるかも知れないね。
「女将さん、私今日は友達と一緒に来ていて」
「初めまして! カーラです」
紹介されて、カーラという子がピョコンと頭を下げる。金色のポニーテールが跳ねて可愛らしい。
でも、この子はどう見てもあたしらと同じ平民みたいだ。レオ坊に負けず劣らず、クリスも友達の幅が広いんだねぇ。まあ、この店でやってけるんだから、さもありなん、か。
「女将さん、これくらいの時間に働ける子を探してたでしょう? カーラに話してみたら、お店に行ってみたいって言うから、連れてきてみたんです」
「クリス、あんた……!」
仕事の速さに驚いちまった。
昨日の今日で、もう候補の子に話をつけて、ここまで連れてくるなんて。そりゃあ当てがある、とは言ってたけどさ。
市井官になるって目標が出来てから、クリスは本当に変わった。
昔はオーダーをとるのでさえ、蚊の泣くような声で弱々しかったってのに、今はもうあたしの方が「早く早く」ってお尻を叩かれかねない勢いだ。
「もし良かったら、少しだけ体験っていうか……オーダーをとって運ぶところをやってみたら、お互いにやれそうか分かるんじゃないかと思うんですけど……いいですか?」
クリスの提案に、カーラも腕まくりで「やってみたい!」と意気込んでる。なんだろうね、勝手に顔がにやけるよ。
「いいさ、やってみな! 元気な子は大歓迎だ」




