SS:【女将さん視点】
コミカライズ②巻発売したので、記念SSを書いております。
楽しんでもらえるといいのですが。
「クリス! フォールバウアとエール、あと串盛り大皿あがったよ! 運んどくれ!」
「はーい!」
「クリスちゃん、こっちにも串盛り頼むわ」
「こっちはナッツ盛りとエール! でかいの頼む」
「はーい! 女将さん!」
「聞こえてた! 任せときな!」
あたしは慌ててでかい声で返事をする。いよいよクリスの声も枯れてきたからね、これ以上声を張り上げさせるのも可哀想だ。
貴族のお嬢様だってのに、ほんとにクリスはよく働いてくれて助かるよ。クリスが来てくれてなかったら、お客さんをさばききれないところだった。
戦場みたいな昼の混雑が終わって、ようやく少しだけ息をつく。
「クリス、ちょっと落ち着いてきたからさ、少し休んでおいで。少しは喉を休めた方がいいよ」
「女将さんこそ、ご飯も食べてないんじゃ……先に休んでください」
「クリスのあとでいいさ。またこの後、忙しくなるからねぇ」
そうなんだよね、前から昼時はバカみたいに忙しかったけど、このところは昼の波がいったん去った三時頃にも客が多くなってるんだ。それも、若い子たちが。
「そうだ、厨房に唐揚げを大量に揚げとくように言っとこうかね。ま、わかっちゃいるだろうが」
「紅月祭の効果、思ったより大きいですよね」
「ああ、このとこじゃ友達同士だけじゃなくて家族も連れてきてくれるようになってさ、客層が広がったよ」
どこの店も客が増えたって言ってたから、本当に思ってもいないほど宣伝になった。ありがたいことだ。
「平日もお客様がぐっと増えたって言ってましたもんね。特に学生が帰るくらいの時間に」
「そうなのさ。ありがたいことだけど、さすがに人手が足りなくなってきたねぇ」
嬉しい悲鳴ってこういうことをいうんだろうね。閑古鳥が鳴くよりかは断然いいけど、人手不足は本当に深刻で頭の痛いところだ。
「その時間だけ働いてくれるような子を雇えればいいんだけど」
できればクリスみたいに看板娘になれるような子だといい。でもねぇ、いかんせんウチの店を出入りするのは強面の男連中ばっかりだから。募集してもそんな子には気づいてもらいにくい上に、もし決まっても男連中の中で声を張り上げて動き回れる気合いがないと続かない。
「なかなか続きそうな子が見つからなくてさ。難しいんだよねぇ」
ついグチをこぼしたら、クリスがいきなり「女将さん!」とあたしの手を握ってきた。
「私、テールズに合いそうな子に、ものすごく心当たりがあります!」
「へ?」
「ちょうどバイトを探してるって言ってたんです! 明るくて元気が良くて……とっても優しい子なんです! 彼女に話してみてもいいですか?」
クリスのあまりの勢いに、あたしはただ頷いた。




