SS_負けたくないのは、僕も同じなのかも知れない⑤
「どうしたの、いったい」
ほっぺたがぷっくり膨らんでる。姉さんのこんなふくれっ面、見たことないんだけど。
「セルバさんから、継続性の回復魔法を習うんでしょう? セルバさんのことあんなに毛嫌いしていたのに、どういう風の吹き回し?」
「だって、このまえのクーレイみたいなことになりたくないからさ」
「ずるい……セルバさんの弟子は私なのに」
「いや、ていうかなんで知ってるの。セルバさんに頼んだの、つい今し方なんだけど」
姉さんは無言で、ずいっと一枚の紙を差し出す。
細かく折り目がついているけれど、紙はかなり上質で、しかも王宮で使われている特殊な加工がなされていた。
「読んでいいの?」
姉さんをちらりと見てそう尋ねた僕は、瞬間、混乱した。
えっ!? なんで姉さん、ちょっと涙目なの? 僕なにか悪いことした!?
急激にバクバクとうるさくなった心臓を押さえながら、僕は素早く文面に目を通す。
そして読むごとに、次第に自分の眉が上がって、ピクピクし出すのを感じた。
……あの野郎。覚えとけよ。
「これ、どうしたの」
「セルバさんが、伝書鳩で」
わざわざそこまでして姉さんに伝えることないだろう! 姉さんにばれないように、わざわざテールズじゃなくてセルバの部屋まで訪ねたっていうのに。
あいつ、多分それをわかってて姉さんに告げ口しやがったな……!
「ね、姉さんも習えばいいじゃないか。そうだ、一緒に習おうよ」
「だって……私にはまだムリだって、セルバさんが言っていたもの。私だって習いたいのに~」
胸がチクリと痛む。セルバさんの魔法に関わることを僕が嫌っていると思ってか、姉さんは僕に直接は言わないけれど、それでもあの継続式の回復魔法をいつかは習得したいと希望していることくらい、僕の耳にも届いている。
そして、今のスキルではまだ、あの魔法を覚えるには早いと止められていることも、僕は知っていた。
だからこそ、姉さんには内緒で習おうと思っていたのだ。
「ぼ、僕も一緒に頼んであげるから。今セルバが忙しいらしくって、習うのはもう少し先の話だし」
そう言った途端、姉さんは急に眉毛を下げた。唇が小さく動いたけれど、声が小さすぎて聞き取れない。
「ごめん、聞き取れなかった。もう一回言って」
「いい。……頼まなくて、いい」
「えっ、いいの?」
「だって……教えてもらえないのは私のスキルが足りないのが原因なんですもの。一緒に頼んで貰っても、多分今の私のままなら、セルバさんは絶対に許してくれないと思うから」
悔しそうに眉根を寄せて、スン、と鼻をすする。
「ごめんなさい、ルーフェス。やつあたりだった」
すっかり肩が落ちている。ちょっと可哀想だけど、でも姉さんの言う通り、今の状態じゃあきっとセルバの許しは出ないだろう。
「邪魔してごめんなさいね。私、魔法の練習をしてくるわ……」
「一緒に練習しようか? 少しなら教えられると思うよ」
姉さんの背中があまりにも寂しそうで、思わず声をかけた。でも、振り返った姉さんは微笑んでかぶりをふる。
「ありがとう、ルーフェス。でも、今はルーフェスだって忙しいもの。私もう少し自分で努力してみるわ」
まったく、姉さんらしい。
姉さんだってこう見えて、結構負けず嫌いだ。うかうかしてたら追い越されちゃうかも知れないな。
でも、負けたくないのは僕だって同じだ。
さて、僕もさっそく鍛錬に励むとしようかな。いつまでも姉さんの心のライバルでいられるように。
これにてルーフェスのSS、終了です。
お付き合いいただきありがとうございました!
できましたら、書籍やコミックも楽しんでいただければと思います。
他にも色々書いておりますので、お時間がある方は読んでみてくださいね(^^)
ありがとうございました!




