SS_負けたくないのは、僕も同じなのかも知れない④
「体に悪いなって実感してるから、やらせたくないの! まだ君は若いしさ、気づかないで乱用してムリしちゃうでしょ? そこそこの年になってからガクッとくるんだからね」
めちゃめちゃ実感のこもった言葉に、ちょっとだけびびった。そこそこの年ってまさかセルバの年じゃないよね。父上くらいだろうか。そこでガクッとくるの、たしかに結構痛いな。乱用は避けよう。
「今の忠告、なんか胸に響いたから大丈夫。ムリしないから、そのうち教えて欲しい」
「おや、随分と素直だね」
「教えを請うのに生意気ばっかり言えないよ」
「なるほど、そういうところはちゃんとしてるんだね」
セルバは面白そうに笑うけど、僕だって姉さんがあんなことになったりしなければ、魔法省のなかでもトップクラスの実力を持つこの人に、あそこまで無礼な態度をとったりはしない。
ただ、一度険悪な態度をとってしまっただけに、今まではちょっと態度に困っていただけだ。
いい機会かも知れない、ここでセルバの僕に対する印象を変えておくのも悪くない。
「あの時は姉さんがあまりにも真っ青で心配だったから、あんな態度になっただけで……本当は、今では悪かったと思ってるんだ」
「へえ、もう怒ってない?」
「姉さんを実験台にしたことについてはもちろん怒ってるけど、自分の態度については反省してる」
僕の答えに、セルバはまたひとしきり笑って、「ふふふ、正直だね。そういうところ、嫌いじゃないよ」とウインクする。
僕も、セルバのこういう柔軟なところと魔法の実力については、むしろ尊敬している。絶対に言わないけど。
「よし、いいだろう。確かに今は立て込んでいるから時間がとれないけれど……そうだね、一月もすれば時間がとれると思うよ」
「本当に!?」
「二言はないよ。こちらから連絡をよこすから、それまで日々の鍛錬に魔法を組み込んでおいて。その方が教えるときに体になじみやすい」
「必ずやるよ! ありがとう……ありがとうございます!」
「ふふ、急に丁寧になった。じゃあ、一ヶ月後を楽しみに」
結果的に快諾を得られて、僕はうきうきとした気持ちで馬車に乗り込む。あの魔法を習得できればきっと、最も仕事に集中したいときに威力を発揮してくれるだろう。
体のケアは、どんな時においても重要だ。
やがて邸に馬車が到着し、扉が開かれた途端に走り寄ってくる人物に、僕は少し複雑な気分になる。
「姉さん」
このところ紅月祭の準備で、いつも忙しくしている。僕ももちろん状況は同じだけれど、そもそもの体力が違うから、僕はいつだって姉さんのことが心配だ。
「酷いわ、ルーフェスったら」
なのに、いきなり睨まれた。




