SS_負けたくないのは、僕も同じなのかも知れない③
僕は深く頷いた。
僕だってそう遠くない将来、学園を卒業して王城での任務に就くというのに、先日のようなていたらくでは任務の完遂もおぼつかないだろう。
そもそも、姉さんが割とピンピンしてるというのに、僕は足も立たない状態だったってのは本当に情けなかった。
姉さんは僕に密かにライバル心を持っているようだけど、負けたくないのは、僕も同じなのかも知れない。なんならレオさんにだって、コーティさんにだって、このセルバにだって負けたくない。
そのうち父上だって超えてみせると思ってる。
そう思っている僕としては、馬車酔いでヘロヘロになっている暇はないんだ。
「酔いがすごいんだったら三半規管でも鍛えた方がいいんじゃないのかい? いくら回復魔法かけたところで、酔うのは酔うよ?」
「うっ……そんな魔法、ないの?」
「酔わないようにはできるけど、感覚を遮断したり鈍くしたりする系だからねぇ。あんまりおすすめはできないかな。野盗とかとの戦闘になったときに困るしねぇ」
「うーん、やっぱり体幹を鍛えるしかないのか」
「体幹?」
「コーティさんに、酔うなら体幹鍛えろって言われた」
途端にセルバが楽しそうに笑い出す。
「あいつらしいな。あんな顔して考え方が意外と根性論なんだよねぇ。体が揺れるから酔うんだ、そもそも揺れなければいい、とか涼しい顔で言うんだろう?」
「そういう意味か。でも確かにあの人、びっくりするくらい揺れてなかった」
「有言実行しちゃうところがタチ悪いよね」
ひとしきり笑って、セルバは「あー、面白い。いい気分転換になった」と立ち上がる。
「さて、本題に戻ろうか。君のオーダーは『循環式回復魔法』の伝授だったね。学ぶのには結構な時間がかかるよ? 必要な時に僕がかけてあげるけど」
「いや。旅先だとか、必要な時には自分で対処したい」
「うーん……まぁ、気持ちは分かるけど」
なんとも歯切れの悪い返答に、僕も居心地が悪くなってきた。
「無理を言って済まない。今でなくていいんだ、落ち着いてからゆっくり教えてくれれば」
「いや、そーじゃなくてさ。教えたら君、エンドレスで使うとか無茶しそうなんだもん。公爵様に怒られるのイヤだし」
鋭い。結構ムチャできるな、とは考えていた。
「あ、そのバツの悪そうな顔、やっぱりそのつもりだったんだ。ホントだめだからね? 体に悪いから」
「さっき僕の目の前で、不眠不休を疲労回復魔法でごまかしてみせた人に言われたくないんですけど」
思わず半目になってしまったのは仕方ないと思う。




