SS_負けたくないのは、僕も同じなのかも知れない②
セルバの部屋の中は、ちょっとした資料室のようだった。
窓と扉以外の壁はすべて本棚になっていて、古そうな書物が天井までぎっしり詰め込まれている。窓辺がお気に入りの場所なのか、日が当たる床に毛布と数冊の本、そしてコーヒーが湯気を立てていた。
「意外と片付いてる」
「酷いな。まあでも、魔法陣書くときに床は広く開いてる方がいいからね、大体いつもこんな感じだよ」
疲れているはずなのに、セルバは笑いながら僕にまでコーヒーを入れてくれる。姉さんがセルバの魔法の影響で倒れたとき、ついセルバにかなりの勢いでくってかかったものだけど、セルバは変わらずにこうして対応してくれている。
……くやしいけど、大人だ。
「それにしても、この高い棟を自力で登ってきたのかい? 呼んでくれたら良かったのに」
「受付の人がセルバは死ぬほど忙しい、どうしても会いたいなら自力で訪ねろって言うから」
「それは意地悪されたなぁ。今の研究は王命でね、とにかく急かされてるから、邪魔させたくなかったんだろうね」
ごめんね、後で叱っておくから、と笑われてしまえば怒る気にもなれない。王命ならば、余計に邪魔するわけにもいかない。さっさと話して帰ったほうがお互いのためにいいだろう。
「王命なら、今は研究の方を優先してくれ。僕の用は、本当にたいしたことないんだ」
「でも、僕の部屋まで登ってきたんでしょ。さ、話してごらんよ」
「落ち着いたら、僕にも継続性の回復魔法を伝授して欲しいと思って」
それを聞いた途端、セルバは目を大きく見開いて、次いでパチパチと忙しなく瞬いて見せた。
そんな表情になるのも当たり前だ。僕だってお願いするのには勇気が要った。
姉さんが倒れた原因の魔法だし、それを姉さんに使うなと詰め寄ったのは僕だし、そのせいで未だに姉さんもセルバも、魔法関係はとかく僕に隠れてこそこそしてるのも知ってるし。
そりゃあ驚くよね。
「どういう風の吹き回し?」
「この前、姉さんがクーレイに行くときに継続性の回復魔法、かけてくれたんでしょ? ……効果が絶大なの、身をもって理解したから」
「あーバレちゃったか。いや、コーティからもクーレイ行きのことは聞いてたからさ。コーティも一緒ならかなり過酷なんじゃないかって心配だったんだよ」
「馬車酔いしすぎて死ぬかと思った」
「やっぱり」
「でも姉さんは意外と元気だったんだ。あれは多分、セルバの魔法のおかげだと思う」
「うん、効果は折り紙付きだからね。今は安全性も検証できてるし……ただ、今言ってるのって、僕が君に魔法をかけるって話じゃなくて、魔法のかけ方自体を学びたいってことだよね」




