SS_あの子が笑った日①
コミック1巻発売記念のSSです(^^)
「本当におでかけになるのですか」
着替えを手伝ってくれるアネッサが心配げに言うけれど、様子を見に行かずにはいられないわ。
だってどうしても、心配なのですもの。
わたくしの可愛い娘、クリスティアーヌが邸を飛び出したのは、昨日の夜遅くのことだった。
密かにつけてある護衛から矢継ぎ早に入る報せ。居ても立っても居られなくて部屋の中を無駄にウロウロと動き回った。
「エリーゼ、少し落ち着きなさい。護衛はつけてある、心配せずとも身に危険が及ばぬよう策はうってある」
「でもあの子、泣いていたって……傷ついているのよ。まさか邸を飛び出すだなんて」
「あの子にも考えがあるのだろう。初めてあの子が自ら起こした行動だ、心配でも我々は見守るべきであろう」
すぐにでも追いかけて抱きしめたいのに、強く止められて、ただいたずらに時が過ぎていく。
下町の面倒見のいいご婦人にかくまっていただけたと聞いた時には本当に安心したけれど、あの子がまだ傷ついていることには変わりがないもの。
勝手に他の女性に目移りした殿下にあらぬ疑いまでかけられて、クリスティアーヌがどんなに辛かったかと考えると、可哀そうでならない。
そして、母だというのにその気持ちをぶつけてももらえないという事実に、じくじくと胸が痛む。
思えばいつからだったかしら、あの子はすっかり笑わなくなってしまった。
ほんの小さな頃は、とっても喜怒哀楽が激しい子だったというのに、いつからか寂しそうに微笑むだけになって。嬉しそうに笑ったかと思うと、ハッとしたように表情が曇って悲しげになる。
何度も理由を聞いたけれど、なにも答えてはくれなくて……難しい年ごろなのかしら、なんて心配しながら見ていたのが悪かったのだわ。
けむたがられても、もっと抱きしめて、もっと無理にでも話す時間を設けるべきだった。物陰に隠れてあの子の様子をそっと窺うしかできないなんて、母親失格だわ。
悲しくて悔しくて、唇をかんだ。
昨夜はどうしても許してもらえなかったけれど、どうしてもあの子の様子をこの目で見たい。
クリスティアーヌがたどり着いたというお店の中を、そっと覗きみる。
ああ……なんてこと。
はじめてのことだろうに、クリスティアーヌは懸命に給仕の仕事を手伝っていた。
まだ目が腫れているわ。でも、自分で切り落としたと聞いた髪は、見栄え良く整えられているみたい。
奥から出てきた女性……あの方が、ここの女将さんなのかしら。クリスティアーヌに声をかける表情は、労わるように、でもとても朗らかで、わたくしでも安心感を覚えるほど。
きっと、クリスティアーヌの気を紛らわせるためもあって、慣れないあの子に仕事を任せてくださっているのだわ。
女将さんの心配りに感謝しながらあの子の仕事ぶりを見守っていたら、急に店内が騒がしくなった。
なんと早くもコミック版の1巻が発売されます!
・1月30日頃(もう明日だね)、コミックス1巻発売
・1月末に「めちゃコミ」で5話公開
・電子版は他の電子書店でも発売予定
なんかもう紙の本出るのが早くてびっくり。。。
皆さんぜひ買ってくださいませ!!




