あなたと一緒に、生きていきたい
私も応えるように、つなぐ手に力をこめる。
見上げたら、レオさんの優しい黒い瞳が、まっすぐに私を見つめていた。
勝手に赤くなってしまう頬を隠したくて、私はまた、ゆっくりと俯く。沈黙が落ちるのが恥ずかしくて、私は小さな声で言葉を紡いだ。
「……実は私、お父様に直談判したのです。どうしても私、やっぱりレオ様と結婚したくて」
「クリスちゃん……!」
「私もレオ様も遠征がきっと多いけれど、ひとつの家に帰るのならば、お互い無理をしなくても、会える日が今よりもずっと増えるでしょう? それなら、お仕事が大変でも、頑張れるんじゃないかって、そう思ったんです」
「もう、なんでそんなに可愛いこと言ってくれるんだ……」
レオさんは感動したようにそう言ってくれるけれど、だって、これが私の偽らざる本心だもの。
「でも、ちょうどよかった。実は俺も帰りの馬車で婚約の話をしようと思っていたんだ」
「えっ」
「やっと公爵に報告できるレベルの業績を上げることができたからね。俺の両親と後見のハフスフルール侯爵にも話を通して、正式に申し込みに行きたくて」
「レオさん……本当に?」
「ああ。こうなったらもう、すぐにでも行きたいくらいだよ。クリスちゃんが前もって直談判してくれたんなら、公爵も許してくれそうだしね」
「私が学園を卒業すると同時に、婚約を許すと言ってくれましたので、その……タイミングはお任せいたします」
「うーん、あと三カ月ちょっとかー、意外に長い」
レオさんの言葉に、思わず笑顔がこぼれる。レオさんも、同じように婚約に向けて真剣に、精一杯動いてくれていたのだと実感できて、それがただただ嬉しい。
「クリスちゃんがいつでもそんな風に笑っていられるように、俺、頑張るから」
「私もっ……私も、です」
嬉しくて、もううまく言葉が出ない。レオさんと出会ってから四年。最初に出会ったころは、彼がこんなにも大切な人になるだなんて、考えもしなかった。
「クリスちゃん、幸せになろう」
「はい……!」
きっと市井官になったら、やりがいも楽しいこともあるだろうけれど、辛いことだってたくさんあるはずだ。たくさんの人の悩みに関わるお仕事だから、なおさらに。
それでも、レオさんと一緒にいられれば、いつでもこんなふうに幸せな気持ちになれることだけは信じられる。
迷いがちで、悩みがちな私だけれど、今だけは、思い切って未来に向かいたい。
この人と、一緒に生きて行こう。そう思える人に出会えたから。
終
これにていったん、完結です。
クリスが迷いながら、落ち込みながら、失敗しながら、ちょっとずつ自分なりの夢に近づく過程を、ここまで一緒に辿ってくださった皆様、本当にありがとうございました。クリスもやっと、自分の手で幸せを掴むんだという、ガッツある子に育ってきた感じがしております。
あと、リナリアはずっと登場させたかったので、書けて嬉しかったですし、お気付きの方も多いかもですが、ミスト室長、コーティ、ルーフェスが私が書いていてとても楽しい人達です。
また機会があれば、その後をちらりと書いてみたいですね……。
しばらくは他のを更新していくので、よろしければそちらも楽しんでくださいませ。
近々新作も出すと思います!
ありがとうございました。




