言おうってずっと決めていた
しばらく談笑しながら踊っていると、曲調がゆるやかに変わっていく。
これは、ワルツだわ。
美しくてロマンティックなダンスだけれど、私はこれがとても苦手だ。だって相手との距離が近すぎて、どうしても照れてしまうんですもの。
でも、今日だけはこの距離がありがたい。
この紅月祭が成功したら、言おうってずっと決めていた。
意を決して見上げれば、レオさんの優しい瞳が私を見下ろしていた。少しだけ微笑めば、同じだけ笑みを返してくれる。
「レオ様、実は私……市井官に登用していただけることが決まったのです」
「えっ、所属ももう決まったの? 通例だと文官登用は決まっても、所属は年が明けてから、各自に通達がいくんじゃなかったっけ」
「はい、ですが私の場合、ミスト様たちからも希望を出してくれていたのと、実務経験を積んでいたことが決め手となって、早々に決まったらしいです」
「ほんと! すごいじゃないか、おめでとう!」
自分のことのように喜んでくれる、その笑顔が嬉しかった。
「これから忙しくなると思うんです。市井官は調査員からのスタートで……王都を離れることもままあると聞きました」
「うん、それはしってる。寂しいけど、遠征が多いのは俺も同じだしね」
そう、私たちは二人とも、遠征が尋常じゃなく多い。きっとすれ違いが多くて、会えることさえ今まで以上に少なくなってしまうのだろう。
「でも私、レオ様に今まで以上に会えなくなるなんて、考えただけでも辛くて」
「クリスちゃん……!」
嬉しそうな顔で見下ろしてくれるレオさんが、とてつもなく愛しい。
背中に回ったレオさんの腕に力が入ったのか、ふわりと距離が詰まった。
「だから……」
言おう、言おうと思うのに、心臓が早鐘を打ちすぎて、唇が震える。
私がなにか言おうとしているのを察してか、微笑みを湛えてただ見守ってくれるレオさん。こんなさりげない気遣いが、いつだって私を支えてくれる。
やっぱり、どうしても私、レオさんと一緒にいたい。
「だから、レオ様、私が卒業したら……結婚、してくださいますか?」
「!?」
驚愕の表情だけ残して、フッと目の前からレオさんが消えた。
ドサッと音がして見下ろせば、レオさんが尻餅をついたまま、口をパクパクと動かしている。
顔が、真っ赤。
「ま、まさか、逆にプロポーズされるとは思ってなかった……」
「あ、あの」
慌てて私も腰を落とし、レオさんを助け起こそうと手を差し伸べて、自分の言い間違いに気づいてハッとする。
「あ、ご、ごめんなさい。えっと、私と、婚約、してくれますか? もちろん、私が卒業してからの話なのですけれど」




