願いが、実現しているのかもしれない
それから小一時間ほどは怒涛の忙しさだった。
もともと種類を増やした分、個々の量は少なめに配したせいか、料理もデザートもお酒も減りが早くて、追加をお願いするのに忙殺されてしまったのだ。
食べ比べて欲しい、なんて思っていたけれど、その結果生じる「例年より量が減りやすい」という予測をしていなかったのが敗因だった。
学生たちは予想以上に楽し気に食事と会話を楽しんでくれているようで、それはとても嬉しいけれど、この忙しさは誤算だ。
各々の料理人や、お店の方にもご迷惑をかけてしまったし……本当に反省しかない。
「おや、なにシケた顔してんだい!」
「女将さん……ごめんなさい、なん度も搬入して貰うことになってしまって。食材、大丈夫でした?」
「大急ぎで仕入れに行ったよ。でも、こんなに食べてくれるなら嬉しいじゃないか」
「そうそう、店の宣伝にもなったし、気にすんな!」
女将さんもロートさんも優しい……。ちょっと涙が出そうになってしまった。
「それにしても、やっぱりこうして見ると貴族なんだねぇ。綺麗だよ、クリス」
「こんなキレーなドレス着てんのによぉ、走り回ってパーティーの切り盛りしなきゃなんないとは、貴族も大変なんだなぁ、ま、頑張んな!」
謝るつもりが逆に励まされて、気持ちも新たに運営の仕事に戻る。
食材の減りをチェックするごとにレオさんの様子を覗き見たら、「旧交を温める」との言葉通り、次から次に声を掛けられてはひとしきり話して、また声を掛けられては話していた。
レオさんって、本当に人気者だわ……。
なんとか一番の山場も抜けてレオさんの傍に戻れたのは、前年よりもコンパクトにまとめられたスピーチが終わって、いよいよダンスがスタートする、という中盤も過ぎてしまった頃だった。
「お疲れ様」
「さすがに、疲れました……」
「大成功じゃない? みんな、すごい美味しそうにがっついてたよ」
「思ったよりも減りが早くて、食べるものの確保に追われていました……」
「うん、だろうなって思ってた」
さすがに前任者。裏方でなにが起こっているかは想定内だったらしい。
「でも、すごく会話もはずんでたし、ほら」
レオさんが視線で指す先には、料理を、デザートを、お酒を一緒に楽しみながら、会話を弾ませる生徒たちがいる。
その中には、貴族と平民が混ざったかたまりもいくつかあって。
パーティーの序盤、お互いに遠慮している様子だった距離感も、今ではぐっと縮まっているように見える。
だって、お互いの話す物理的な距離が近いもの。
「良かった……」
少しでも、みんなが楽しんでくれればいい。
貴族と平民の垣根が少なくなるといい。
そんな願いが実現しているのかもしれない、そう思える光景が、そこには広がっていた。




